野ボール横丁BACK NUMBER
「イチローや松井が例外だったんですよ」MLBでフロントを経験、斎藤隆が明かす“米国で獲得リストに挙がった日本人野手の名前”
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byShigeki Yamamoto
posted2021/03/27 17:02
引退後はパドレスのフロントとして、選手の育成やチーム編成に携わった斎藤隆さん。現在はNHK BSのMLB中継などで解説を務める
斎藤 野手に関しては、「なぜ行けなかったのか」という話をするのは酷だと思います。むしろ、イチローや松井(秀喜)が例外だったんですよ。というのも、メジャー規格の日本人野手が現れないのは、日米の組織の違い、土台の違いですから。アメリカのプロ野球団は、実質的に七軍ぐらいまであると考えていい。七軍から上がるのでも何十人の中の競争に勝ち抜かなければならない。それで、やっと六軍ですから。よく「ほんの一握り」という表現を使いますが、メジャーリーガーになれるのは、まさにほんの一握りなんです。日本に三軍ができましたっていうけど、そういうレベルの話ではありません。
――そういった育成システムの違いで、もっとも大きな差が現れるのは、打撃力、走力、守備力のうちどれですか。
斎藤 守備じゃないですか。特に内野守備です。
――打撃ではないんですね。
斎藤 もちろん、打撃もそうですが、内野の守備力は、芝生の上で野球をやることが当たり前だった彼らと、土と人工芝しか知らない日本人選手では、考え方や捕り方に根本的な違いがあります。だから、上手い下手ということではなく、違うんですよ。それが土台の違いという意味なんです。
獲得候補に挙がった“2人の日本人野手”
――野球の哲学の違いもありますよね。アメリカは「点取りゲーム」だけど、日本は「点を取られちゃいけないゲーム」。だから、どうしたって求められる技術も変わってくる。
斎藤 僕も最後の3年間、楽天でプレーをして、パ・リーグのパワー野球を体感しました。実際、セ・リーグ以上にアウトを取るのは難しく感じました。ただ、日本とアメリカの違いというのは、そんなものではないですからね。特にここ数年、アメリカでは「フライボール革命」が起き、多くのチームが1番から9番まで、常にホームランを狙える打者を揃えている。そこに入っていける日本人選手となると……どうです? いますか? 僕がパドレスのフロントにいた頃、その議論をもっとも多く重ねたのは、柳田(悠岐=ソフトバンク)と山田(哲人=ヤクルト)でしたね。でも、彼らは、もうアメリカへは行かないんじゃないかな。行ってたら……とは思いますけどね。
――日本人野手の場合、ホームランは1桁だけど、俊足で、巧打者で、それなりに守れるみたいな選手では、興味を示してくれないんでしょうね。
斎藤 イチローみたいにとんでもなくヒットを量産する打者なら、また話は違うかもしれませんけど。あと、また「スモールベースボール」の時代になって、(トニー・)ラルーサのようにその本質をよく理解している指導者が現れれば、田口(壮)のような選手が重宝がられるかもしれませんね。
大谷翔平の二刀流はどう思っていますか?
――新たにメジャーに挑戦する澤村、有原の2人の活躍はどう予想されますか。斎藤さんはアメリカでリリーバーとして飛躍されましたが、アメリカの野球に合う合わないみたいなものはあるのでしょうか。