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「試合に勝って、勝負に負けた」“完璧ではない神童”那須川天心19歳の涙…“宿命のライバル”武尊とロッタンがいま対戦する意味「闘いはまだ続いている」
posted2025/03/05 17:02

2018年6月17日、当時19歳の那須川天心はロッタン・ジットムアンノンに延長戦で辛くも勝利。試合後にはリングで涙を流した
text by

長尾迪Susumu Nagao
photograph by
Susumu Nagao
プロボクシング6戦目で前WBO世界バンタム級王者のジェーソン・モロニーを破り、世界タイトル挑戦へと大きく前進した那須川天心(26歳)。キックボクシング時代から公式戦無敗を続ける“神童”だが、過去には敗北寸前まで追い込まれた一戦もあった。長く那須川を撮影してきたフォトグラファーの長尾迪氏が、強敵との因縁をひもといていく。(全2回の2回目/前編へ)
「試合に勝って、勝負に負けた」那須川天心の涙
判定が読み上げられる。
49-49、49-48でロッタン、そして最後のひとりは49-49。ドローとなり、延長戦が決まった。とはいえ試合の流れを見る限りでは、天心が不利なのは明らかだ。延長を勝ち切る秘策があるのか、私はセコンドの様子を凝視した。何か作戦を指示しているようだが、遠すぎて聞きとることはできない。
再開のアナウンスがあり両者がリング中央へ歩み寄る。天心は意を決した静かな顔をしていた。試合中とは思えない、無の境地に達したかのような表情だった。
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本戦では手数が減った天心だったが、延長戦では積極的な攻めを見せる。残り時間が1分を切ったところで両者がギアを上げる。激しい打ち合いになった。天心のパンチがガツンと顎を打ち抜くとロッタンはのけぞり、顔面から血液まじりの汗がはね上がった。天心が攻勢のまま終了のゴングが鳴る。再延長に備えてコーナーに戻った天心だったが、もう自分の足だけで立つこともままならず、両手をロープに挟み、セコンドのタオルを口にくわえていた。
延長戦の判定は3-0で天心。死闘に終止符が打たれた。試合後、無敗を守った19歳の“神童”はリング上で涙ながらにこう語った。
「試合に勝って、勝負に負けた」
結果として、天心はその後も無敗を続けている。このままボクシングでも無敗のまま、世界タイトルのベルトを巻くことができるのだろうか。早ければ年内にはその答えが出るだろう。