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安藤美姫の“出産報道”、千葉すずバッシング…なぜ日本の女性アスリートはスキャンダルの対象になってきたのか?
text by
近藤正高Masataka Kondo
photograph byAFLO
posted2021/02/28 17:03
1992年バルセロナ五輪、1996年アトランタ五輪に出場した千葉すず
千葉すずバッシングとは何だったのか
有森が活躍したアトランタ五輪では、競泳の千葉すず(1975~)が世間のバッシングの標的となった。この大会で日本競泳陣は1つもメダルを得られずに終わった。敗北の責任の所在を問う声が高まるなか、ニュース番組に出演した千葉が「そんなにメダル、メダル言うんだったら、自分で泳いでみればいいんですよ」と発言して、物議を醸す。さらにさかのぼり、彼女が大会を前に「オリンピックを楽しみたい」と言っていたことも、問題視された。
その後、あらためて「楽しみたい」と言った真意を問われた千葉は、《水泳の合宿というのをご覧になれば分かると思うんですが、本当に辛いものなんです。(中略)オリンピックとなったら、限界まで追い込まないといけないし、もし合宿とかが楽しくなかったら、それはそれは辛いことになるんです》と答えている(千葉すず・生島淳『すず』新潮社)。
「感動をありがとう」に乗ってくれなかった
これとほぼ同じことを、2018年の平昌冬季五輪の女子カーリングで銅メダルに輝いた日本チーム(ロコ・ソラーレ)キャプテンの本橋麻里(1986~)が著書で書いている。それによると、勝つためには苦しさをくぐり抜けないといけないからこそ、楽しい瞬間を発見してそれを膨らませていくことが必要なのだという(本橋麻里『0から1をつくる 地元で見つけた、世界での勝ち方』講談社現代新書)。
いまでは、トップアスリートたちが五輪やワールドカップなどの大きな大会を前に「楽しみたい」と言うことは珍しくない。世間でもおおむね好意的に受け止められている。しかし、アスリートがどうしてそう口にするのか、きちんと理解している人は少ないだろう。
むしろ、選手たちの言う「楽しむ」と、自分たちが観戦して「楽しむ」ことを混同している人が圧倒的に多いのではないか。