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安藤美姫の“出産報道”、千葉すずバッシング…なぜ日本の女性アスリートはスキャンダルの対象になってきたのか?
text by
近藤正高Masataka Kondo
photograph byAFLO
posted2021/02/28 17:03
1992年バルセロナ五輪、1996年アトランタ五輪に出場した千葉すず
しかし、そのことで、メディアでスキャンダラスな扱いをされることもあったという。同様のことは、フィギュアスケートの安藤美姫(1987~)が2013年にやはり結婚せずに出産したときも繰り返された。このとき、本人が子供の父親は明かさないとの意向を示したにもかかわらず、一部メディアでは相手が誰なのか詮索するような報道が出た。
折しも安藤は競技活動を休止中で、復帰して翌年のソチ冬季五輪を目指すかどうか注目されていた。それに加えて、日本社会ではシングルマザーに対してまだ理解が十分に進んでいないために、好奇の目で見られてしまったといえる。なお、彼女はこの年12月、五輪出場を目指して全日本選手権に出場するも7位に終わり、現役引退を発表した。
有森裕子は披露宴を中止せざるを得なかった
五輪の女子種目は1970年代から大幅に増えていき、2012年のロンドン五輪でボクシング女子が採用されたことで、ついに男女とも全競技が実施された。日本の選手でも、とくに80年代以降、女性の活躍がめざましい。当記事の前編であげた橋本聖子や小谷実可子、前出の山口香のほか、マラソンの有森裕子(1966~)、高橋尚子(1972~)、野口みずき(1978~)、柔道の谷亮子(1975~)、レスリングの吉田沙保里(1982~)、伊調馨(1984~)、サッカーのなでしこジャパンなど、国際舞台で活躍する選手・チームが続々と登場した。
しかし、それにともない、女性アスリートのプライベートな事柄までもが、メディアで興味本位的にとりあげられることが増えた。山口香や安藤美姫だけでなく、有森裕子も1996年のアトランタ五輪で、前回のバルセロナ五輪の銀に続く銅メダルを獲得したあと、1998年に結婚したアメリカ人男性をめぐって騒動に巻き込まれた。
きっかけは夫の過去の金銭トラブルが報じられたことだ。これについては、有森も結婚前から気になっていただけに、公になって彼が悔い改めるのではないかと、内心ほっとしたという。だが、それに乗じて、彼が同性愛者であることまでが報道されたのには怒りを覚えたと、のちに明かしている(有森裕子『わたし革命』岩波書店)。誰かに迷惑をかける問題ではないのだから、当然だろう。しかし、同性愛に対して偏見もまだ根強くあったこの時代、このことは大きく騒がれ、2人は日本での披露宴を中止せざるをえなかった。