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“観客数396人”は「仕方ない」のか… 棚橋弘至がどうしても鷹木信悟に勝たなければいけなかったワケ
text by
原壮史Masashi Hara
photograph byMasashi Hara
posted2021/02/03 17:02
1月30日の鷹木信悟戦に勝利した棚橋弘至。“流行っている感”を失いつつあるプロレスに危機感を抱いている
新しい現地観戦ではどうにもできなかったこと
ファンはいつか元通りになるその日までプロレスがなくなってしまわないように現地観戦を続けてきたが、声出しができないことは試合に没入し熱狂することを困難にした。
声援を送れない中、応援方法は手拍子になった。選手を応援するためのコールは簡単に代用できた。ブーイングの代わりは難しかったが、ジェイ・ホワイトやKENTAに手拍子以外何もできないことを馬鹿にされるとファンの悔しい気持ちはより高まり、ニューノーマルな関係性が出来上がった。新しい現地観戦の形は、難しい中でもなんとか成り立っていた。しかし、どうにもできなかったことがある。非日常の世界に没入しにくくなってしまった最大のポイントは、試合の最後だ。
一旦ここで区切ろう。これで十分じゃないか
「ワン・ツー・スリー」の大合唱の代わりも、当然手拍子になった。ところが、カウント2.9だと口では「ス……」で止められても手だとどうしても3回目の音が鳴ってしまう。鳴ってしまっても構わないはずなのだが、どこか違う。ライブで拍手のタイミングを間違えたみたいでもやもやする。どこか会場が気恥ずかしい空気になり、白けてしまう。
どんなことでも仕方ないと受け入れてきたファンだったが、これはどうにもならなかった。間違って3回目を叩いてしまわないようにどこか一歩引いた視点で試合を見守ることは、ファンの気持ちを控え目にさせていった。そうやって試合への没入感や熱狂が薄れてしまうと、徐々に現地で観戦しなければならない理由を見つけられなくなった。一度そうなれば「仕方のないこと、今は我慢する時だ」と分かっていても、実際は以前と同じようには足が向かなくなっていく。
この厳しい状況の中で様々なことを受け入れ、時には妥協し、もやもやはあったがしっかりとドーム大会まで見届けた。だから、一旦ここで区切ろう。動画サイトの会員にもなるし、好きな選手のグッズを買って団体にお金も落とす。これで十分じゃないか。また、元の生活が戻ってきたら現地での観戦を再開させよう。
そう思うこともまた、仕方のないことだ。