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【箱根駅伝】駒大“大逆転”のウラ側…コーチの証言「大八木のゲキは選手への『愛』なんです」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byJMPA
posted2021/01/15 17:02
10区で2位の駒大・石川拓慎(3年)が創価大・小野寺勇樹(3年)を振り切った
藤田コーチによれば、大八木監督は田澤の育成については、「ブレーキとアクセルをうまく使い分けています」という。練習強度をセーブしている状態で、「本当はもっと強くなれますが、今は実業団に行ってから伸びるようにじっくりと土台を作っている状態」だという。
エースの成長を促す一方で、チームビルディングにも成功したわけだが、学年によって色合いが違い、戦力を整える作業は決して簡単ではなかったという。
「いまの3年生の世代は、リクルーティングで苦戦したのは間違いありませんでしたが、今では3年生もメンバーに絡んでくるようになりました。2年生は田澤が来てくれて、他のメンバーもなかなか面白いですし、1年生は『みんなで駒澤に入って優勝しよう』と意欲に燃えて入学してきました。すごい世代ですから、これからが楽しみです」
11月の段階では3年生は戦力にカウントされているとは言い難かったが、箱根の本戦ではアンカーの石川拓慎はじめ、3年生の活躍がなければ駒大の優勝はなかった。
「駒澤を受験します」
そして藤田コーチが、「2年生で面白い」といったメンバーが、9区を走った山野力だった。
山野は高校2年から3年の春にかけて、5000mのベストタイムは14分45秒だった。20年前ならいざ知らず、今では大学から声がかからないレベルのタイムだ。しかし山野は駒大で走ってみたいと思い、部活動を続けながら受験勉強にも励んでいたが、トラックシーズンが進んだところで14分17秒が出た。こうなると、どの大学も放っておかない。しかし山野の決心は揺るがなかったと、藤田コーチはいう。
「おそらく、いい条件での誘いもあったんじゃないかと思います。でも、山野本人は頑として駒澤を受験します、と揺るがなかったんです。そして、一般受験を突破して来てくれた。そうした選手たちが伸びています」
山野は9区で区間6位。先頭を走っていた創価大の石津佳晃が区間賞の素晴らしい走りを見せたため、相対的にかすんでしまったが、山野の堅実な走りは駒大に入って順調に成長したことをうかがわせる。
そして今回、1年生も1区白鳥哲汰(区間15位)、5区鈴木芽吹(区間4位)、7区花尾恭輔(区間4位)と3人が走り、経験を積んだ。藤田コーチは「1年生と田澤との距離はまだまだありますが……田澤がいい目標になってくれるでしょう」と話す。来年度、さらなる成長が見込めるだろう。
「あれは大八木の、学生に対する『愛』なので…」
13年ぶりの優勝を果たした駒大。今年のメンバーで卒業するのは3区を走った小林歩(区間2位)だけで、常識的に考えるならば来年も優勝候補の筆頭になる。