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【箱根駅伝】駒大“大逆転”のウラ側…コーチの証言「大八木のゲキは選手への『愛』なんです」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byJMPA
posted2021/01/15 17:02
10区で2位の駒大・石川拓慎(3年)が創価大・小野寺勇樹(3年)を振り切った
「大八木は落ち込んでいましたし、いろいろと葛藤があったと思います。でも、そのころから『変わらないといけない』という意識が強くなっていったと思います」
大八木監督自身は、2018年から2019年にかけ、東京オリンピックのマラソン代表を目指していた中村匠吾への指導を通じて、指導方法に変化が表れた。藤田コーチはいう。
「同じマラソンに取り組んだと言っても、私と中村では、タイプがまったく違います。私は大八木と同郷ということもあって、コミュニケーションは取りやすい方だったと思いますが、中村は口数が少なく、黙々と練習をこなすタイプですから、大八木もいろいろなアプローチを考えたんだと思います」
「学生の意見を聞くようになりました」
その結果、生まれたのが「対話型」路線への変更だった。
現役時代、大八木監督の存在は絶対で、監督の言葉に従順に従うことが強くなる早道だと思われていた。
しかし、いまは違う。選手たちは従っているように見えても、信じ切っているかどうかはまた別の話である。コーチの目からは、対話型に舵を切ることで、大八木監督は学生の自覚を促したという。
「まず、大八木は学生の意見を聞くようになりました。そのうえで、『じゃあ、こうしていこうか』という結論に到達しますが、学生にすれば自分で発言したことで、責任が生じるわけです。ここ数年、大八木は柔軟に対応していますね」
指導者に限らず、人間、50歳を過ぎると自分のメソッドを変えるのは難しい。しかも、大八木監督ほどの成功者であれば、なおさら。しかし藤田コーチの目からは、勝てない時期が続いたことで、監督はより柔軟になっていったという。
エース田澤の練習強度を“セーブ”する理由
「今の学生気質に対応しているのが、すごいところです。あれだけの成功を収めたわけですから、当然のことながらプライドもあるでしょう。学生からすれば、畏れ多い存在ですよね。でも、大八木は自ら学生の目線まで降りていく。練習メニューの立案についても貪欲です。世界最先端の情報を取り入れ、アレンジしながら田澤(廉)というエースを育て、その一方で部員たちの底上げをする。きっと、楽しいと思いますね」