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「羽生善治先生は負けたときも次の日の朝には…」 タイトル戦“定番ホテル”視点で見た数々の名棋士伝説
text by
内田晶Akira Uchida
photograph byAtsushi Hashimoto
posted2021/01/14 17:02
対局場となる離れ「九重」の内部。常盤ホテルは何度も名局の舞台となってきた
打ち上げの席でのこと。小沢さんが加藤女王に「ポット、重かったですよね。配慮が足りなくて申し訳ございませんでした」と謝罪したときだった。
「たっぷり入っていてありがたかったです」
加藤女王は「いえ、私は対局中にお茶をたくさん飲みたいので、むしろたっぷり入っていてありがたかったです」と満面の笑みを浮かべたのであった。カトモモ流の神対応といった舞台裏の絶妙手に「加藤先生のお言葉とお気遣いにとても救われました」と小沢さんは恐縮しきりだった。
創業100年に向けて「八大タイトル戦すべてを」
常磐ホテルは令和11年に創業100年を迎える。「できれば八大タイトル戦すべての対局を行ってみたい」と今後の目標を語る小沢さん。大きな夢を持つことで自身の仕事にいい緊張感がみなぎってくる。
将棋が進化を続けるように、ホテルの接客やおもてなしも時代によって変わってくる。正解を模索する日々がこれからも続く。
「対局者が10人いらっしゃれば10通りのご希望があると思いますし、前述したように主催社によっても控室の作りなど対応が微妙に違ってきます。各社がそれぞれ大事になさっているものを直接聞くわけではなく、自分の目で見てどれだけ感じることができるか。事前に調べてデータとして持っておくことは、これからも続けていきたく思います。常磐ホテルのタイトル戦と一口に言っても、棋戦ごとに違った意識を持って取り組んでいるのです」
華やかな名勝負の裏でも際どい攻防戦が繰り広げられている。それを知ったうえでタイトル戦を観ると、また違った印象や楽しさを感じることができるだろう。舞台裏にもドラマが尽きることはない。