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「羽生善治先生は負けたときも次の日の朝には…」 タイトル戦“定番ホテル”視点で見た数々の名棋士伝説
text by
内田晶Akira Uchida
photograph byAtsushi Hashimoto
posted2021/01/14 17:02
対局場となる離れ「九重」の内部。常盤ホテルは何度も名局の舞台となってきた
タイトル戦にとって、取材本部は対局室に続く大事な部屋のひとつだ。主催する新聞社によってレイアウトががらりと変わってくることは意外と知られていない。現在はコロナ禍で密にならないように机の間隔を大きく開けているが、それまでは机をいくつかの島になるように組んだり、全員が前に置かれているモニターが見やすいスクール式にしたり、各社の希望を聞いて翌年からはそれを踏襲してきた。
「各新聞社の部屋の配置もデータのひとつとしてすべて保存してあります。どうしても現在はコロナが大きく関わってきますので、時代の流れとともに阿吽の呼吸で臨機応変に対応していければと思っております」
他県のホテルとタイトル戦に出向き、学ぶ姿勢も
とにかく下調べに余念がないのが小沢流のおもてなしだ。開催にあたって他県のホテルや旅館に出向いてタイトル戦の様子を学ぶ姿勢を貫いている。
「主催社の方々へのご挨拶という目的もありますが、運営やら設営やら、いいところを学んで常磐ホテルでの対局に生かしていきたいと思っております。ホテルマンとしてその旅館やホテルがどういった営業を心掛けているかを見るのも勉強になります。また、対局者がうちに初めて来られる方の場合には、好みなどを事前に知っておきたいですね。お嫌いなものをお出ししてしまい気分を損ねてはいけませんから」
早期決着の番勝負だと対局がなくなってしまうが
筆者は長年の将棋記者活動で小沢さんにお世話になってきた。振り返ると常磐ホテル以外の会場で顔を合わせることのほうが多かったかもしれない。理由のひとつに常磐ホテルの開催が番勝負の後半に行われることが多いからである。例えば七番勝負の第6局を予定している場合、第5局までに決着がついてしまうと対局がなくなってしまう。ホテルとしては対局用に押さえた部屋や会場を一般の宿泊客に提供できず、経営にも大きく影響してくるだろう。
しかし、小沢さんは「将棋のタイトル戦が日本の文化であることはオーナーも含めて全社員の共通認識です。伝統のタイトル戦にご指名いただけることが光栄ですから」と言う。