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永瀬拓矢「生命としての将棋」~求道者の素顔~

posted2021/01/15 07:00

 
永瀬拓矢「生命としての将棋」~求道者の素顔~<Number Web> photograph by Haruka Fujita

永瀬拓矢には、自分には将棋しかないという思いがあった

text by

高川武将

高川武将Takeyuki Takagawa

PROFILE

photograph by

Haruka Fujita

4人のタイトルホルダーが覇を競う現在の将棋界。その一角を担うのがこの男だ。極限まで努力と研究を重ねるストイックな姿勢は、他の追随を許さない。飽くなき情熱の源泉は何なのか。少年時代の追憶から、鬼才の実像に迫る。

 永瀬拓矢は異色の棋士である。

 天才集団の棋界で、「将棋に才能は要らない。必要なのは努力のみ」と公言し、色紙に「根性」と揮毫する。対局以外は練習将棋を詰め込み、月に28回研究会をやったという逸話もある。将棋の息抜きは将棋、勝つためには何でもやる、ストイックな男……。ついた異名が「軍曹」。一般的に棋士であれば「○○流」と呼ばれる異名も、彼だけは異色だ。

 その永瀬が今、「四強」の一角を担っている。一昨年、初タイトルの叡王と王座の二冠を獲得。昨年は豊島将之竜王に叡王を奪われたが、王座は初防衛。王将戦挑戦者決定リーグ戦で今度は豊島を破り、渡辺明王将(名人、棋王)に挑むことになっている。

 棋風が何よりも異色だ。四強の渡辺、豊島、藤井聡太二冠は、10代から切れ味抜群の終盤力で「天才」と称されてきた。永瀬は違う。彼の持ち味は尋常ならざる粘り強さにある。2020年9月に王座戦で対局した久保利明九段が言っていた。

「永瀬さんの将棋には人を狂わせるところがある。優勢なのに粘る手を指すんです」

 攻める手を指すのが当然の局面で、永瀬はたびたび自陣を固める手を選ぶ。読みにない手を指された相手は混乱し、自分の将棋を狂わされていく……。昨年の叡王戦でも、史上に残る長手数の「永瀬ワールド」を展開し、将棋ファンを呆れさせた。

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