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「羽生善治先生は負けたときも次の日の朝には…」 タイトル戦“定番ホテル”視点で見た数々の名棋士伝説 

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内田晶

内田晶Akira Uchida

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photograph byAtsushi Hashimoto

posted2021/01/14 17:02

「羽生善治先生は負けたときも次の日の朝には…」 タイトル戦“定番ホテル”視点で見た数々の名棋士伝説<Number Web> photograph by Atsushi Hashimoto

対局場となる離れ「九重」の内部。常盤ホテルは何度も名局の舞台となってきた

「カバンひとつできていただけるように」

 シリーズの決着が近づく後半になると対局者や関係者の緊張感や緊迫感がより高まってくる。そういった状況では慣れている場所のほうが何かと安心できるのは事実だ。

「前の週に対局のあるなしが決まることもありまして。主催者の方には、その対局に関わる方の名簿だけ送りさえすれば済むのが非常にありがたいと言っていただけます。もちろん下見にくる必要もないでしょうし、カバンひとつできていただけるように準備をして皆さまをお待ちしています」

 それ故に常磐ホテルでシリーズが決着することも少なくはない。タイトル戦の定宿になった2008年以降、11局の対局が行われてきたが、常磐ホテルでの決着が実に7回もあった。

「歴史的瞬間に立ち会うことができるのはとても大きな喜びです。棋士それぞれに様々なドラマを感じずにはいられません」

敗戦後の羽生先生、竜王位復位の渡辺先生は……

 常磐ホテルでは様々な歴史が刻まれてきた。それゆえ各棋士の人物像も自ずと見えてくるそうだ。棋士の個性を直に感じることができるのも小沢さんの楽しみのひとつになっている。

 羽生善治九段の立ち居振る舞いにはいつも刺激を受けているそうだ。長きにわたって将棋界の第一人者として君臨する堂々とした姿勢から、人として学ぶところが多いと言う。

「羽生先生は負けたときも次の日の朝には平然としていらっしゃいます。もちろん勝率10割なんて棋士はいないわけで、どんなに強い棋士も負けることはありますが、羽生先生のそういったお姿を見るたびに、人間こうじゃなきゃいけないんだなと感じさせられるのです」

 現在、名人・棋王・王将の三冠を保持する渡辺明名人は、常磐ホテルで竜王位に復位した。将棋界を牽引するトップ棋士として、自身の発言や振る舞いを日頃から最も意識していると感じさせられる。小沢さんは竜王復位のときのコメントが印象深いと言う。

「竜王と呼ばれることに慣れていたから愛着を持っていた。それを取り返したことは最高にうれしいと渡辺先生はおっしゃっていました。主催者へ最高の感謝の言葉ですよね。聞いていて感激しました」

 将棋めしにまつわるエピソードも面白い。

【次ページ】 「大盛り」をめぐる係の気づかい

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