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ランパード解任論はあり得ない! コロナ禍での指揮官続投が新しいチェルシー像を確立できる根拠
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2021/01/10 11:00
チェルシーのレジェンドであるランパード監督。彼の思い描くスタイルはピッチで具現化されるのか
42歳と監督としては若く、キャリア3年目の指揮官にも責任はある。選手の自主的対応が見られなかったという以前に、前線からのプレッシングの不徹底や、中盤でボールを奪い返す組織的な仕組みの不備により、容易く最終ラインの裏に侵入される傾向はマンC戦以外でも見受けられる。
また、マイボールの際にも自身が好む「躍動」や「迅速」という表現が当てはまらない攻撃は、やはり敗戦が妥当な結果だったアーセナル戦はもちろん、その5日前、3-0で勝利したウェストハム戦でも同様だった。
リーグ戦9試合を含む計17試合で無敗を続けていた間は、ランパードは堅守を優先する現実的感覚も垣間見せた。その一方で得点源として獲得したベルナーをはじめ、伸びしろもあるがゆえに高価な新戦力を最大限に活かす戦い方など、長期的なビジョンをより明確に打ち出してチーム作りを進める必要がある。
ロイ・キーンは“猶予がない”と指摘するが
そのためにも、やはり時間が必要だ。
マンC戦の中継で解説を務めたロイ・キーンは、「昨季はフリーパスをもらっていたようなものだ」と言い、一変して積極補強を経た今季のランパードに時間的猶予などないと指摘していた。
確かに、猶予を与えれば結果が伴うはずと経営陣に信頼されるだけの「実績」を持っていないのは事実だが、少なくとも実戦での試行錯誤が避け難いコロナ禍での就任2年目を終えるだけの資格は、1年目に手に入れたはずである。
FIFAによる補強禁止処分という背景が新米監督に有利に働いたとするなら、クラブはクラブで、マウリツィオ・サッリ前体制下で問題視されたファンとの溝を埋めようとして、レジェンドが持つ求心力を利用した面もある。監督としてチェルシーに戻った元MFは、トップ4とFAカップ決勝進出という予想以上の結果で抜擢に応えている。
「過程では苦しみに耐えなければ」
ランパード自身は「クラブが目指す地点に辿り着く過程では苦しみに耐えなければ」と、マンC戦後のリモート会見で語った。「猶予を懇願」というトーンで報じられたが、当人の表情には険しくとも悲愴感はなかった。
9年前の3月、早期解任劇の犠牲者となった若手監督の前例に当たるアンドレ・ビラス・ボアス(現マルセイユ監督)が、ラストゲームとなったウェストブロムウィッチ戦後の会見で見せた、血の気が失せたような表情とは違っていた。
当時、自身の口から解任を告げることがせめてもの情けだったオーナー以下チェルシー経営陣が、「#lampardstay」というハッシュタグこそが相応しい指揮官と同様に、目先のリーグ順位だけではなく、確固たるアイデンティティを持つ新チェルシー像を「目的地」と認識していることを願う。