箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
《下克上の箱根駅伝》四強でも古豪でもない…なぜ出場4回目・創価大が“ダークホース”になり得たのか?
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byNanae Suzuki
posted2021/01/03 21:00
大波乱の箱根駅伝を演出した創価大学の下克上。往路では、2位駒大に2分以上の差をつけてゴールした
榎木は、チームに合流した際、選手たちの「箱根に出たい」という純粋な気持ちと熱い眼差しを感じ、「箱根への本気度が伝わってきた」という。
そこから榎木は、「5か年計画」を立て、箱根常連校にすべくチーム改革を始めた。
しかし、わずか1年で箱根駅伝出場を決め、前回大会では総合9位に入り、シード権を獲得する躍進を見せた。そして、今年の大活躍である。あと1歩のところでつかんでいた優勝を手放してしまったが、確かな強化の成果を見せた。
これだけの短期間でチーム強化に成功したのは、なぜなのか。その理由の1つに「指揮官が冷静で、焦らない」ということがあげられるだろう。
ビビる選手に「タイムが走るんじゃない。人が走るんだ」
「創価大は、青学とか優勝した駒澤さんのように、エリートが入ってくるような大学ではないので、育成をじっくり2、3年かけてやるようにしています。そこで私が焦ってしまうと、無理が生じて怪我が多くなり、成長につながらないからです」
普通、早く結果を出そうとすると練習のボリュームを上げたり、強化について焦りがちになるのだが、榎木は決して無理はしないし、させなかった。
一方で、レースでは常に「チャレンジ」を求めた。
強豪であればどの大学でもやっている、“当たり前のこと”とも言えるかもしれない。けれど、榎木のこの要求は、「箱根出場を目指す」創価大の選手たちに、自分自身に厳しい姿勢を貫く力と、決して妥協しない強さをもたらした。
「レースでは、タイムが欲しかったら、人の後ろについていくのではなく、自分の力でペースを作って出していこうと言っていました。失敗もありましたけど、どの試合でも選手はチャレンジすることを忘れなかった。そこに成長があったと思いますね。箱根の16人に入れなかったメンバーも軒並みベスト記録は更新していて、チーム全体としてそういうチャレンジする空気感が備わってきたのかなと思います」
強豪校が参戦してくるレースでは、相手の威圧感や持ちタイムにビビり、戦う前に怯んでしまう選手もいる。そのためレースになると、「タイムが走るんじゃない。人が走るんだ」と選手に檄を飛ばしたという。
「試合の時、自分より良いタイムを持っている他大学の有力選手が走るから、もう自分は負けたというのではなくて、やってきたことをすべて100%出そう、と。そうすれば相手が失敗することもあるし、チャンスも出てくる」
こうした意識を徹底することで、選手の実力は飛躍的に向上していった。