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田中希実(21)vs廣中瑠梨佳(20)、“19人が周回遅れ”の新谷仁美……「神回だった」日本選手権を振り返る
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byTakao Fujita
posted2020/12/07 17:00
廣中とのデッドヒートを制し、東京五輪の出場権を獲得した田中希実
日本選手権は「タイムは狙いづらい」大会だったが……
日本選手権は通常は6月に開催されるが、その時期は梅雨で湿度が高く、暑さもあってレースは消耗戦になり、タイムを狙うのは難しかった。多くの選手が日本選手権については「勝負に徹する」と口を揃えていたが、それはそう割り切らざるをえないコンディションでのレースだったからだ。
だが、12月の開催となった今大会は、湿度が低く、気温が11度。「非常に走りやすかった」と多くの選手が語ったように、記録と勝負の二兎を追えるコンディションだった。そのため、「これなら戦える」と選手が非常にポジティブにスタートラインに立てたことが好結果につながったのは間違いない。
PBの文字が躍るリザルトを見ていると、いっそのこと中長距離は、短距離やフィールド競技と分離し、この時期に開催してもいいのではないかと思えてくる。
今回は、コロナ禍の影響を受けて世界陸連が4月6日から11月30日まで五輪参加標準記録などの適用を凍結しており、その期間が明けて五輪代表選考レースとして特別に開催された。
だが、これだけ結果が出たのだ。
中距離は“12月開催”を真剣に考えるべきでは?
短距離やマラソンと比較してもうひとつ盛り上がりに欠ける中長距離の発展を考えるのであれば、12月の開催は検討すべき課題であり、冬の風物詩として定着させてもいいのではないか。コンディションが良い中で、選手は積極的に走ることができ、それがさらに思いがけない好勝負を生み、レースが盛り上げ、ベストタイムが出る。これを繰り返していけば、今は世界との距離が遠い日本の中長距離界だが、その差を徐々に詰めていけるのではないだろうか。
今回の日本選手権は、神回になった。
記録ラッシュで大成功ということだけで終わらせるのではなく、日本の中長距離界の“今後”を考える意味で大きなターニングポイントになってほしいと思う。
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