オリンピックPRESSBACK NUMBER
田中希実(21)vs廣中瑠梨佳(20)、“19人が周回遅れ”の新谷仁美……「神回だった」日本選手権を振り返る
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byTakao Fujita
posted2020/12/07 17:00
廣中とのデッドヒートを制し、東京五輪の出場権を獲得した田中希実
男子10000mでは4選手が日本記録を更新
男子10000mは、中盤までは大迫傑(ナイキ)、昨年度の覇者である田村和希(住友電工)が積極的なレースを展開していたが、中盤以降、相澤晃(旭化成)が徐々に前に出て来た。7000mぐらいには、伊藤達彦(Honda)が前に立ち、相澤と今年の箱根駅伝2区の競り合いを彷彿とさせる熱いレースを展開した。
ラストの鐘が鳴るとスパートした相澤が後続との差をどんどん広げ、27分18秒75の日本新記録を達成。東京五輪の男子10000mの代表の椅子を獲得した。さらに伊藤も27分25秒73で日本記録を更新し、五輪参加標準記録の27分28秒を突破。来年、日本選手権で優勝すれば最大のライバルとともに東京五輪出場を果たすことが可能になった。
今大会が実り多きといったのは、彼らの活躍と偉業達成ももちろんだが、3000m障害では男女合わせて7名、5000mでは男女合わせて16名、10000mでは男女合わせて37名もの選手が自己ベストを更新したからだ。吉居大和(中央大)が5000mでU-20日本記録を13分25秒87で更新するなど、まさに歴史的なPB(パーソナルベスト)ラッシュになったのである。
記録ラッシュを後押しした「東京五輪の出場権争い」
個々の選手が自己ベストを更新したばかりではなく、その走りは今後に可能性を感じさせるものが多かった。
例えば、10000m・B組で27分54秒06を出した中谷雄飛(早稲田大)と27分55秒59を出した太田直希(早稲田大)は学生ながら社会人に一歩も引かずに、フロントレースを展開し、攻めの姿勢を見せた。他にも学生では、田澤廉(駒沢大)が27分46秒09、池田耀平(日体大)が27分58秒52、塩澤稀夕(東海大)が28分08秒83を出し、10000mに出場した6名の学生の内、5名が自己ベストを更新した。彼らが社会人に果敢に挑み、攻めのレースを最後まで貫いたことは、多くの大学生に勇気を与えただろう。
今回、中長距離のレースにおいて、4人が日本記録を更新し、60名がPB更新と記録ラッシュになった背景は、まず東京五輪の出場権が掛かったレースということで、選手のモチベーションが非常に高かったことが挙げられる。
この日のために練習し、この大会に賭けてきた選手が非常に多かった。男子10000mで日本記録を更新しながらも3位になった田村がレース後、悔し涙を流していたが、このレースにかけてきた強い思いが感じられた。こうした選手の気持ちが全面に出たからこそ胸を焦がすような白熱したレースが実現したのだと思う。それはエンターテインメントとしても最高だった。
また、コンディションの影響も非常に大きかった。