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帰ってきた天才・新谷仁美が語った、高速化する1万mで世界と戦うための“逆転の発想”とは【日本新】
posted2020/12/07 12:05
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph by
Kenta Yoshizawa
一度は競技を離れた天才の復調を、鮮烈に印象づける快走だった。
2020年1月19日、アリカ・ヒューストンで、新谷仁美がハーフマラソン日本記録を14年ぶりに更新した。従来の福士加代子の記録を48秒も更新したことはもちろん、マラソンで2時間18分台の記録をもつエチオピア人選手らに競り勝っての優勝が、大きな衝撃を与えた。
「『マラソンはやらないの?』ときかれるけど、3回走って30km以降がキツイの知ってるし……だって2時間も走るんですよ!(笑)。でもヒューストンを走って以前ほど拒絶反応はなくなったかな」
新谷がこだわるのが、'13年モスクワ世界陸上で5位に入賞した1万mだ。すでに東京五輪の参加標準記録を切っているが、昨秋のドーハ世界陸上では世界トップとの差を見せつけられたという。
「ここ数年は1500mなど中距離出身のスピードランナーが優勝争いの中心に変わってきています。彼女たちのストライドの大きさは、ちょこまか走る私たち長距離ランナーとは別物ですから」
逆説的発想で世界に対応する。
世界の変化に対応するための鍵になると考えるのは、逆説的発想にも思えるがハーフへの取り組みだという。
「これまでトラックでは一度もリラックスして走れたことがなかったんです。でもハーフでは肩の力も抜け、初めて楽に走れた。長距離はメンタルが大事ですから、これは私にとってすごく大きい。2月にはたった2週間ほどのスピード練習で5000mの自己ベストも出せたので、1万mにもつながるはずです」
指導を受ける横田真人コーチは800m元日本記録保持者で、新谷と同級生だ。
「ハーフへの挑戦も横田コーチの提案でしたが、普段からお互いにコミュニケーションをとれるからこそ、競技の面でも信頼できる。その関係が、今も私が成長できている理由だと思います」
新谷仁美Hitomi Niiya
1988年2月26日、岡山県生まれ。興譲館高時代は都大路1区で3年連続区間賞。実業団でもロンドン五輪代表になるなどトラックを中心に活躍したが、右足の故障もあり'14年に引退。会社員生活を経て'18年競技に復帰した。積水化学所属。166cm、44kg。