“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
戸惑い→気づき→責任→象徴 2年で17人のJリーガーを生む明治大・栗田監督に聞く大学サッカーの意義
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by MATSUO.K/AFLO SPORT
posted2020/10/31 11:00
明治大学の来季Jリーグ内定者はすでに8人。実績とともに大学サッカー界を牽引している存在だ
大学1年は「戸惑い」の時間
1年目は「戸惑い」の時間だ。大学にはさまざまな境遇や価値観を持つ選手が揃う。一度はプロの道を断たれた者がいれば、プロの道を断って進学した者もいる。さらには世代別の日本代表経験がある選手がいれば、それとは無縁の高校生活を送った選手もいる、というようにレベルも価値観もバラバラ。さらに先輩との上下関係などサッカー以外の生活面でも大きなギャップに直面する。
2年目はその戸惑いによって得た「気づき」を理解する時間だ。少しずつ環境に慣れることで、改めて自分の強みや弱みを見つめ直し、チームが目指すことや自分の目標を再発見する。栗田監督は「ここからはまさに気づいた者勝ちなんです」と、この時間を最も重要視する。
3年目はそこに「責任」が追加される。チームを牽引する意識が芽生え、同時に自分の行動やプレーにこれまで以上に大きな重荷が加わる立場になるのだ。栗田監督は「そこで責任感が出てこないと、周りからの信頼は得られない」と、明確な差が出る時期と認識しているようだ
4年目にぶち当たる壁
そして、最高学年となる4年目は自らが「象徴」となることを求められる。サッカーの技術や人間性など、明治大学サッカー部の全てを体現する存在にならなければならない。ここでぶつかるのが、犠牲心との葛藤である。自分のプレーよりもチーム全体のバランスを優先することで、それぞれの特徴や持ち味を損なってしまう例をこれまで多く目撃してきた。この壁こそが、プロの道に進む上での大きな鍵になる。
「犠牲心とは自分がうまくいかない時でもチームのために尽くすこと。この段階になると、チームが何を求めているのか、監督が何を求めているのかを、より深く考える思考が生まれる。中学、高校年代でも同じようなシチュエーションはありますが、決定的に違うのは彼らが20歳を過ぎた大人であるということです。組織と自分、自分とサッカーを客観視しながら持ち味を発揮するために思考を巡らし、工夫する時間。それをプロに入る前に経験できることで、大きな成長に繋がり、さらに上のステージで活躍できるメンタリティーを生み出すんです」
使われて終わる、ではなく
この「サイクル」を経験し、いかに理解できているかが今後のキャリアを大きく左右する。
「サッカー選手全員が長いキャリアを歩めるとは限りません。一時的に調子が良くても、数年後には忘れ去られてしまうこともある厳しい世界です。息の長い選手になるためには、各チームで評価される活躍を続け、仮に環境が変わっても、その評価の軸が変わらない選手にならないといけない。
そのためには人間軸とサッカー軸の両輪をしっかりと鍛えていかないと、一時だけ使われて終わる『商品』になってしまう。でもその両輪を持つ選手は、商品で終わらない。自分の意志をきちんと持っていれば、自ら動いてチャンスを掴みにいける、道を切り開いていける判断力を持てると思うんです」