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放送中止、ボディタッチで抗議……ブンデス初の女性主審・ビビアナが実力で跳ね返してきた“性差別”
text by
了戒美子Yoshiko Ryokai
photograph byGetty Images
posted2020/10/21 11:00
日本が優勝したドイツ女子W杯、翌年のロンドン五輪で主審を務めたビビアナ・シュタインハウス
「(9月30日に)シュタインハウスがキャリアを終えた。ドイツサッカーにとっては悲しい1日だ。彼女は信じて戦えば目標が叶うということを教えてくれた。ブンデスリーガに女性なんて、15年前には考えられないことだった。前審判長のハーバート・ファンデルは彼女に1部で笛を吹かせることに反対し続けていた。メディアからの圧力が高まり、ファンデルは辞任。ただ、彼は(性別ではなく)純粋なパフォーマンスによってのみ評価を受けるべき、という考え方には至らないままだった。新しいボスであるルッツ・フレーリッヒは彼女を評価しすぐに1部での機会を与えサポートした」
ドイツでさえ、ほんの15年前まではどんなに実力があっても、女性であることが理由でチャンスが与えられないという現実があったというのは、意外にも感じられる。記事では彼女の主審ぶりをこう評価している。
「確かに彼女は5本の指に入っていたわけでもなく、一番足の速い主審でもなかった。ただ彼女はよく試合をコントロールしていた。落ち着いていて、興奮せず、傲慢でもなかった。選手や監督、スタッフから彼女のジャッジは愛された」
3シーズンで23試合と決して試合数は多くなかったが、シュタインハウスは一度もレッドカードを出していない。最後に記事はこう結んでいる。
「シュタインハウスは大きな扉を開いた。女性が男性の試合で笛を吹くことにリスクはなく、むしろ資産である」
イランの放送局は「女性が主審だから」放送を中止に
決して誰にでもできることではないが、その職を望み実力を伴うのであれば確かに性別で判断されるべきではないだろう。とはいえ、彼女は女性であるがゆえにピッチ内外で特別な注目を集めざるを得なかったのも確かだ。
17年9月、1部でのデビューとなったヘルタ対ブレーメン戦では、試合ではなく彼女を取材するために多くの取材陣が殺到したという。女性だからという理由だけで必要以上の注目を浴びたわけだ。件のキッチュ記者は「女性の大会の主要な試合で何度もシュタインハウスは主審を務めてきたが、男性の試合のほうが注目度が高いのは事実」とも書いている。女子W杯、五輪の決勝を裁くよりもブンデスリーガ1試合の方が注目を集める。
またイランの放送局IRIBは彼女が笛を吹くからという理由で19年10月のアウクスブルク対バイエルンの放送をキャンセルした、ということもあった。これも当然ながら大きな物議をかもした。
ピッチ上でもいろいろあった。