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恩師である武井壮の言葉を胸に 陸上十種競技・右代啓祐はこれからも変化を恐れず、前へ 

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林田順子

林田順子Junko Hayashida

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photograph byShigeki Yamamoto

posted2020/10/14 11:00

恩師である武井壮の言葉を胸に 陸上十種競技・右代啓祐はこれからも変化を恐れず、前へ<Number Web> photograph by Shigeki Yamamoto

年を重ねることで自分の体も変化する

 そのため、僕は毎年同じ練習をしたり、毎回同じ技術を磨いたりはしません。これはモチベーションを保つためでもあるのですが、常に自分に良いものを探したり、新しい手法を学んだりしながら、新たな自分を発見していくようにしています。

 もし、僕が今、自己ベストを出した2014年と同じ練習をしていたら、知識量や経験値の今とのギャップはすごい大きいと思いますよ。年を重ねることで自分の体も変化するのだから、それに合わせてトレーニングの考え方、過ごし方を変えていかないと。そのためには失敗してもいいから、いろいろなものに挑戦したほうが、僕は価値があると思っています。

6年もの間、自己ベストが出ていなくとも

 もうひとつ変化のきっかけとなったのは2016年のリオデジャネイロオリンピックです。オリンピックの2カ月前の練習中、アクシデントで棒高跳びの棒が折れて、膝に突き刺さってしまったんです。全治3カ月。もう間に合わないと絶望的な気持ちで帰宅したら、足を引きずって、目をパンパンに腫らした僕を見て、当時2歳の娘がアンパンマンの絆創膏を持ってきてくれたんです。「パパ、アンパンマンを貼れば治るよ」って。こんな小さな子でも、僕を前に向かせるために必死でパワーをくれているんだと感じた瞬間、まだやれることはあるって思えた。そこからは治療の先生や色々な方からのサポートを受けて、万全の状態まで回復して、大会に間に合いました。

 それまで僕は、2016年のオリンピックが競技人生の集大成になるだろうと思っていました。だけど、怪我を経験したことで、オリンピックで終わりにすると決めなくてもいいんだ、自分がやりたかったらとことんやればいいんだって気付いた。今、僕がこうやって競技を続けていられるのは、あの事故があったおかげです。そして一見マイナスの出来事もプラスに転換できたことで、自分自身がすごく成長できたと思っています。

 僕は今、34歳で、陸上界ではベテラン中のベテラン。そして、6年もの間、自己ベストが出ていません。

 立ち幅跳びや筋力測定の数値も昔より下がってきています。体の動かし方を変えたり、いろいろな技術を試しても記録が出ないというのは、すごく自分が否定されているような気がするし、自己不信に陥ります。正直、辛さもあります。

 だけど、今の方が記録がいい種目もあるんです。若い頃より怪我もなくなったし、試合でも勝ち続けているので、まだまだ衰えは感じていません。今は6年ぶりの日本記録を目指して頑張っている最中ですし、変化を恐れず、挑戦はこれからも続いていくと思います。

右代啓祐

右代 啓祐Keisuke Ushiro

1986年7月24日、北海道生まれ。中学時代に陸上競技を始め、札幌第一高3年時に八種競技に転向、本格的に十種競技を始めた国士舘大学で頭角を現す。2010年に日本選手権で初優勝(以降2015年まで6連覇、昨年まで最多8回の優勝)。2011年、日本選手権混成競技で日本人初の8000点超えとなる8073点をマーク。2012年ロンドン五輪には同種目では日本人選手48年ぶりの出場を果たす。2014年には8308点を挙げ自身の持つ日本記録を更新し、アジア大会では金メダルを獲得した。2大会連続出場となった2016年リオ五輪では日本選手団の旗手も務めた。国士舘クラブ所属。

ナビゲーターの俳優・田辺誠一さんがアスリートの「美学」を10の質問で紐解き、そこから浮かび上がる“人生のヒント”と皆さんの「あした」をつなぎます。スポーツ総合誌「Number」も企画協力。

第129回:右代啓祐(陸上)

10月16日(金) 22:00~22:24

陸上十種競技の右代啓祐選手は身長196cm、体重95kgの恵まれた体格をいかし、2012年に同種目では日本人選手48年ぶりとなる五輪出場。2016年リオ五輪では日本選手団の旗手も務めました。2日間に亘る長い戦いで気持ちをリセットしたい時は、感情を表に出すために「大声を出している」と明かします。現在34歳。陸上選手としてはベテランの域に入りましたが、いつも胸に留めているのは「変化し続けること」。「例えば仕事でつらいときも、思いっきり落ち込んで、そこからどう変化できるかが大事」と視聴者にメッセージを送ります。

第130回:佐藤優香(トライアスロン)

10月23日(金) 22:00~22:24

トライアスロンの佐藤優香選手は18歳の時にユースオリンピックで金メダルを獲得。以降、日本トライアスロンの顔として活躍し、2016年のリオ五輪でも日本人トップでゴール。今後ますますの活躍が期待されています。鉄人レースとも呼ばれるトライアスロンは、スイム、バイク、ランを連続して行なう過酷な競技。しかし、彼女がハードな練習に臨む際は「楽しむ」ことを意識し「楽しんで取り組めば、練習の精度も高まる」と力を込めます。番組では“鉄人”のオフにも密着。そこで彼女は強く戦うための特製スムージーの作り方を披露してくれました。

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