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オリンピック出場3回の荒木絵里香がバレーボール人生最後の1年に賭ける思い
posted2020/09/16 11:00
text by
林田順子Junko Hayashida
photograph by
Kiichi Matsumoto
この夏、東京オリンピックを最後に引退するはずだった。
大会中に36歳を迎える4度目のオリンピックのはずだった。
今頃は我が子と濃密な時間を過ごしているはずだった。
荒木絵里香が考えていた競技人生のラストプランは、1年先延ばしとなった。
結婚の時も、出産の時も、これまでの人生でバレーボールを辞めようと思ったことは一度もなかったんです。
バレーボールが好きだし、まだまだ下手だから、このままじゃ終われない、もっと上手くなりたいという思いがずっと変わらずありました。
でも東京オリンピックはいいきっかけだなって、初めてここで辞めようと思ったんです。
所属しているトヨタ車体クインシーズの本拠地は愛知県なので、家族とは離れて暮らしていて、娘からはずっとバレーボールを辞めて欲しいと言われていました。
「ママは目標があって、そこに向かって挑戦しているの」と伝えているのですが、娘からしたらオリンピックよりも、一緒にいて欲しいという気持ちが強いんですよね。オリンピックが終わったら引退して、なるべく娘と一緒に過ごそうと考えていました。
「いや、辞められない」って
だから延期を聞いたときは混乱しました。夫と母に娘の面倒を見てもらっているので、自分の意思だけでもう1年競技を続けるとは決められなくて。まずは2人に相談しました。
だけど母から「もう辞めてもいいんじゃない?」って言われたときに「いや、辞められない」ってハッとしたんです。
自分の役割の大きさ、競技を全うしたいという思いに気づいて、もう1年続けようと決めました。
今はよく「オリンピックが1年延期になったことについてどう思うか」って聞かれるじゃないですか。バレーボールに限らず、他の競技でも、練習する時間ができたとか、もっと上手くなれるとか、ポジティブなことを言う選手が多いですよね。でも、私の場合は年齢的なこともあって、正直違うかなと思っています。例えば、自分の最高打点のときと比べたら、ジャンプ力は多分5cmくらいは落ちているはず。そう考えると、1年の延期は大きいですよ。
でもこれは自分ではどうしようもないこと。ネガティブに考えたり、マイナスになるよりも、受け入れて、今できる最善を尽くしていくしかない。いろいろな技やスキルの部分で新しいことにチャレンジして取り入れているし、細かなところで良くなる要素は感じているので、ここからうまくなる可能性もゼロではないと思っています。私の場合、スキル面でも、テクニック面でもスタートが酷すぎたので、多分たくさん伸び代が残っているんです(笑)。