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巨人・澤村拓一トレードの裏側 飼い殺しより“引き算”したほうがいい
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKYODO
posted2020/09/12 11:40
キャンプ中、澤村を指導していた原監督。特に目をかけていた選手の1人だったと言えるだろう。
選手を出すことで、その選手が生きる引き算の補強
積極的に外に出すということではなかったかもしれない。
それでも広島が人的補償で指名してくれば、長野にとっても新しい世界が広がるはずだというのが理由だった。選手を出すことによって、その選手が生きる引き算の補強にもなるという考えだった。
澤村のトレードも、まさにその引き算である。
澤村を巡る原監督との話で印象に残っているのは、入団1年目の開幕直後のことだ。
前年で退団したマーク・クルーン投手に代わるクローザー候補のレビ・ロメロ投手がもう1つ安定感を欠き、山口鉄也投手もケガで離脱。抑えの人材に苦しんでいた監督に「澤村という考えは?」と問うたことがあった。
「アイデアとしてはいいけどね。でも澤村が可哀そうだ」
当時はメジャーでも球に力があれば、駆け引きや経験はなくてもボールの勢いで1イニングは抑えられるというクローザー論が流行っていたこともあった。
そこで大卒1年目の澤村をという訳だが、原監督にはあっさり拒否された。
「アイデアとしてはいいけどね。でも澤村が可哀そうだよ。彼は先発として20勝できる可能性を秘めている。まずはそこで勝負させたい」
期待通りに1年目に11勝すると、2年目も10勝で2年連続2桁勝利。順調に先発の柱へと成長の階段を登っていくかに思えた。
ところが3年目から制球難が激しくなって長いトンネルに入ってしまう。
そこで原監督はリリーフでの再生を勧め、'15年には36セーブ、高橋由伸監督時代の'16年には37セーブでセーブ王にも輝いている。
才能を認め、何とか役割を見つけて働き場所を与えた。
ただ、一昨年オフに監督復帰してからは、巨人での再生を模索しながらも、同時に環境を変えて、新しい場所での再出発の機会を作る“引き算”も考えていたのは明らかだ。