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西岡良仁、マリーと4時間39分の大激戦。本人が冷徹に振り返る敗因を財産に。
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byGetty Images
posted2020/09/03 17:00
2セット連続で奪い、かつてのBIG4であるマリー戦勝利にあと一歩まで迫った西岡良仁。この結果で満足するような男ではない。
「半年離れていた分、前のような」
第4セットは5度ブレークポイントを握りながら、一度もブレークを果たせなかった。第5セットは第5ゲームで先にブレークしたが、次のゲームでブレークバックを許した。西岡はこの逸機を「ブレークチャンスが取れず、大事なところをことごとく逃しながらのプレーだった」と悔やむ。
勝負どころで積極的に行けなかった理由は「試合勘」の問題だという。
「半年離れていた分、前のような勝負強さが欠けていた」
新型コロナウイルスの感染拡大でツアーは約5カ月にわたって中断、全米は西岡にとって半年ぶりの公式戦だった。中断前の1月、西岡は今季開幕戦のATPカップでナダルに善戦、全豪では2回戦で世界ランキング32位のダニエル・エバンズに快勝するなど好調だった。その頃に比べ、「ここというときの思い切りが足りなかった」という。
マリーが実践した勝負師の極意。
昨年11月のデビスカップ・ファイナルズでフランス代表のガエル・モンフィスに快勝した西岡は試合後、「思い切り」についてこう話している。
「しっかり組み立てて、粘り強くというのは自分の持ち味だが、チャンスと思ったポイントで自分から攻め、思い切ってプレーして、取れなければ仕方ないという割り切りの中でプレーするようになった」
トップ選手との対戦を何度か経験して得た教訓である。昨年、トッププレーヤーを何人も破ったのは、この境地に足を踏み込めたからだろう。ある種の開き直りがダイナミックなプレーを生む。
足の運びを軽く、ラケットの振りを滑らかにし、大胆な戦術選択を可能にする。大事な場面だからこそ、アドレナリンが出て、体と頭がオートマチックに動く「ゾーン」状態に入れる。しかし、マリーとの試合では試合勘を欠いた影響で、そこにたどり着けなかったか。
逆に、その勝負師の極意をマリーが実践した。ミスが続き気力さえ失ったように見えた時間帯を経て、第3セット以降は一転、思い切りがよくなった。まさに「取れなければ仕方ない」という態度を前面に出してきた。
一方、西岡は第3セット以降、プレーがおとなしくなったように見えた。「ずっと一定のペースでやっていた感じだった」と話したように、彼の試合運びに欠かせない大胆さ、ダイナミックさが消えていた。