ワインとシエスタとフットボールとBACK NUMBER
マンチェスター・シティ発の世界戦略。
B・マーウッドのサッカービジネス論。
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byCFG
posted2020/09/01 18:00
世界中に散らばるクラブチームのマネジメントに関わるCFGグローバルフットボール部門のディレクター、ブライアン・マーウッド。
「誰も永久に成功し続けることなどできない」
――コロナ禍がサッカーの在り方を変えると思いますか?
「それもわからない。誰もこんな事態を予期できなかったし、1年後、1年半後にどうなるかは誰にもわからない。ましてや3年後、5年後となると……。多くの人々に影響を与えるのは間違いなく、誰もその苦しみからは逃れられない。だから私は何も言えないし、誰かが何かを言えるとも思えない。未来の像を描くことは誰にも出来ないだろう。奇妙なのは事態が瞬く間に進展したことだ。事態が深刻化したのは3月だった。そこからまだ半年も経っていない。拡散は急激で驚くばかりだった」
――コロナ禍以前は、CFGの世界戦略はうまくいっていましたか?
「ここ1年から1年半は、成功を示す素晴らしい指標を得ていた。マリノスの成功には誰もが喜んだ。15年ぶりのリーグタイトル奪還は素晴らしい成果だった。プロジェクトにかかわったすべての人々にとって晴れやかな瞬間だった。
ニューヨーク・シティはイースタンカンファレンスで結果を残しているし、マンチェスター・シティは見事な結果を出している。四川九牛足球倶楽部は甲級(2部)に昇格し、メルボルン・シティはクラブ史上初のACL出場権に手をかけ、モンテビデオ・シティ・トルケも1部昇格を果たした。ジローナFC(スペイン)も昇格プレーオフに進んだ。多くの成功をわれわれは得た。
だが、誰も永久に成功し続けることなどできないのがサッカーであることもまたよくわかっている。まだまだやるべきことはたくさんある。常に努力を怠らずに謙虚であり続けない限り、やがては道を失うだろう」
「このクラブのDNAを創造したかった」
――ベーシックなスタイル、理想のスタイルはグアルディオラのそれになるのでしょうか。彼を獲得したのは偶然だったのか、それとも何らかの必然性があったのか。彼がいなかったとしても、今と同じ戦略をとっていたのでしょうか?
「まず言いたいのは、ペップは素晴らしい人物であり素晴らしい監督であるということだ。彼は監督として大きな成功をおさめた。しかし同時に言いたいのは、人間としてのペップだ。とても謙虚で、本当にハードに仕事をする。一緒に働く人間を特別な何かに変身させる。彼を監督に迎えられたのは望外な幸運だったが、望んだことでもあった。また彼自身もMCを長い時間をかけて分析した。
われわれの戦略は2009年にスタートした。このクラブのDNAを創造したかった。長い間、MCには一貫したものが何もなかった。一貫性のない状態から是非とも抜け出したいと考え、そのための方法論を時間をかけて構築した。スタート時はバルセロナやスペイン代表、とりわけヨハン・クライフとオランダサッカーの影響を受けて、どうすべきかという方法論を構築し、DNAを作り出そうとした。
だが仕事を続けて行くためにはそれに相応しい人々、正しい方向に導くことが出来る人々が必要だ。ペップはその最たる人物だが、MCは彼が来る前から成功を収めている。まずロベルト・マンチーニが、クラブに44年ぶりのリーグタイトルをもたらした。前年には彼のもとで42年ぶりのFAカップ優勝を果たした。徐々に環境が整っていくなか、マヌエル・ペジェグリーニがやって来て、さらにトロフィーを獲得した。次に就任したペップは、クラブをまったく新しいレベルに導いた。われわれは進化し続けている。ペップにはできるだけ長くクラブにいて欲しい。クラブスタッフとの関係は極めて良好だ。とりわけフットボール・ディレクターのチキ・ベギリスタイン――彼は日本でもプレーしたが――やフェラン・ソリアーノとは親しい関係にある。ペップは今、とてもハッピーに見えるし、この環境に満足してもいる。チェアマンのカルドゥーン・アル・ムバラクやアロナ・シェアマンソーから十分なサポートを得ている」