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マンチェスター・シティ発の世界戦略。
B・マーウッドのサッカービジネス論。
posted2020/09/01 18:00
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
CFG
UAEの首都アブダビに本拠を置く「アブダビ・ユナイテッド・グループ・フォー・デベロップメント・アンド・インベストメント(ADUG)」が、タイ元首相のタクシン・チナワットからマンチェスター・シティ(以降MC)を買収したのは、2008年9月1日のことだった。
以降、MCは、イングランドのいちクラブというだけでなく、「シティ・フットボール・グループ(CFG)」を形成しながら世界的な活動を展開していく。各大陸それぞれにクラブをという理念のもと、2014年7月にはCFGと日産自動車はグローバルパートナーシップを締結し、横浜F・マリノス(以降マリノス)もCFGの傘下に加わったのだった。
2004年以来15年ぶりとなるマリノスのJリーグ優勝が、CFGのサポートの結果であることは誰も否定できない。アンジェ・ポステコグルーという有能ながら特異な監督のもと、監督の標榜するプレースタイルに合った選手たち、日本人もそうだがとりわけ外国人選手を移籍で獲得できたからこそ、マリノスはJのタイトルを奪還できたのだった。その外国人選手獲得をサポートしたのがCFGであったし、そもそもポステコグルー自体がCFGが候補者リストにリストアップした人物だった。
それではマリノスに成功をもたらしたCFGは、グローバルにどんな活動を展開しているのだろうか。何を目的として、どんな戦略をとっているのか。そしてマリノスとの具体的な関係は……。CFGグローバルフットボール部門のマネージングディレクターを務めるブライアン・マーウッドに話を聞いた。2回に分けて掲載するインタビューの前半は、CFGの世界戦略に関して(後半はマリノスとの関係と具体的な活動について)である。CFGはいったい何を目指しているのか。マーウッドが語った。
「フェラン・ソリアーノのアイディアから生まれた」
――まずCFGの世界戦略の概要と、その中でのあなたの役割から教えてください。
「アブダビのオーナー(カルドゥーン・アル・ムバラク)がこのプロジェクトを開始したのは2008年で、サッカー産業への参入は比較的最近のことといえる。それから12年がたち、マンチェスター・シティ以外に主だった成果はあまりあげていないが、2013年からは全世界的な戦略を展開しそれぞれの大陸にCFGのチームを持つに至った。今日のテーマでもある横浜F・マリノスもそのひとつだが、一番新しいのはベルギーのクラブ(ロメルSK)だ。グループ発展のためのプランはいまも継続しており、適切な機会を得ていると感じている。何年もかけてアイデンティティを築きあげ、世界のサッカーの中での今日の状況には誇りを感じている。シティのサッカーを世界に向けて継続的かつ安定して提供できるようにしたいと思っている」
――どうしてそうした世界戦略を考えたのでしょうか?
「グループのCEOであるフェラン・ソリアーノ(元FCバルセロナ副会長兼CEO)のアイディアから生まれた。彼はそのアイディアをずっと温めていて、バルセロナにいたころからそうしたことを考えていた。とても優れたコンセプトで、ビジネスとサッカーの両面で多くを学ぶことができる。それを異なる環境のなかで適用できる。もちろん世界のそれぞれの地域で状況は異なり、われわれはその違いを時間をかけて学び、適応し変容させてきた。もちろん遂行するうえで、地域に固有の価値は尊重している。
サッカーの世界に企業者的な思考を導入したのはソリアーノの業績で、われわれはそれをグループとして実践している。十分なサポートを受け、適切な方向に向かって進んでいる」