甲子園の風BACK NUMBER
小林樹斗が“5万回”見たあの試合。
1年前、奥川恭伸に甲子園で敗れて。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNoriko Yonemushi
posted2020/08/25 07:00
体型的にも、まだ「6、7割の力」というコメント的にも、小林樹斗の投手としての伸びしろは計り知れない。
「6、7割」の力で150キロ台を連発。
6月後半から始まった練習試合や7月からの和歌山大会では進化した姿を披露した。和歌山大会では、初戦の南部戦で自己最速の150キロを記録すると、準決勝で151キロ、決勝で152キロと最速を更新。そのスピード以上に、球場に通ったプロのスカウト陣が評価したのがストレートの“質”だ。
巨人の岸敬祐スカウトは、「もともとスピンの効いたまっすぐでしたが、ひと冬越えて、コロナの期間も経て、ひと回り成長したなという印象です。回転数が多く、質がいい。まっすぐで空振りを取れるというところは本当に魅力的。そこはなかなか教えられない、天性のものだと思うので」と話した。自粛期間が明けたこの夏、評価が大きく上がった選手の1人だ。
しかも大会中、小林はほぼ「6、7割」の力の入れ具合だったと言う。
「力を入れると荒れてしまうのが自分の特徴で、6、7割ぐらいがコントロールも安定して投げ込める力感なんです。
秋はスピードにこだわりすぎて、どんどん力んで、コントロールがアバウトになってしまって、結果的に打たれてしまった。だから冬からは制球力を重視してやってきたんです」
セカンドを守る綾原創太は、「ボール先行になったり、甘く入って打たれるということが少なくなって、めちゃくちゃ安心感があります」とエースへの信頼感を語った。
小林は今でも毎日、奥川の映像を見ているという。「5万回? そのぐらい見たんじゃないですかね」と笑った。
交流試合、小林は笑っていた。
そして8月17日の甲子園交流試合。6回裏のマウンドに上がった小林は、いきなり尽誠学園の3番・福井駿にレフトオーバーの二塁打を打たれた。しかし小林は笑みを浮かべていた。
「相手バッターがしっかり振れていたので、もう少し慎重に攻めていかないといけないなと感じました」
そこから少しギアを上げ、4番・仲村光陽、5番・宝来真己を打ち取り、6番・村上侑希斗も空振り三振にしとめてピンチを脱した。