甲子園の風BACK NUMBER
小林樹斗が“5万回”見たあの試合。
1年前、奥川恭伸に甲子園で敗れて。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNoriko Yonemushi
posted2020/08/25 07:00
体型的にも、まだ「6、7割の力」というコメント的にも、小林樹斗の投手としての伸びしろは計り知れない。
「昨日の試合、5万回見ろ」
その試合の翌日、中谷仁監督は小林に、「昨日の試合、5万回見ろ。奥川との違いを勉強しろ」と宿題を出した。
それから1カ月ほど経った秋季和歌山大会中に、小林にあの試合の映像を見たかと聞くと、「見てないです」と答えていた。
ところが今年1月に取材に行った際には、「毎日奥川さんの映像ばっかり見てます」と言った。
秋の不甲斐なさが小林を動かした。昨秋の大会はコントロールに苦しみ、失点が重なりエースの役割を果たせなかったからだ。
奥川の映像からは得るものが多かった。マウンドさばきや投球術、ムダのないフォームなどを参考にしたと言う。
「奥川さんは、味方にミスが出たりしても、常に笑顔で振る舞っていて、しっかりピンチも切り抜けていた。そういうのは自分になかった部分でした。自分は、態度に出ていると言われることがあった。出しても1つもいいことはない。
攻め方の面では、奥川さんは相手の打者が合っていなかったらとことんそのボールを続ける。でもやっぱり1番すごいのは、ここぞというところでしっかり決められるコントロールですね」
人生で一番投げた冬。
冬場、小林は制球力を磨くことを最重要課題として取り組んだ。下半身を徹底的に強化し、「投げる量も、今までの野球人生の中で1番投げた」と言う。バッターに対して投げる機会を増やすため、冬場でも暖かい日には紅白戦など実戦形式の練習を多く組んでもらった。
新型コロナウイルスによる活動自粛期間中は全体練習ができない時期もあったが、その中でもできることを地道に積み重ね、「コントロールというのを考えてトレーニングを重ねたら、それに比例してまっすぐのキレもよくなってきた」と手応えを感じるようになった。