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各校の采配に思う「甲子園の価値」。
勝利か、引退試合か、それとも。

posted2020/08/26 07:00

 
各校の采配に思う「甲子園の価値」。勝利か、引退試合か、それとも。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

倉敷商の梶山和洋監督は、この大会に例年以上の意義を感じた監督の1人である。意外とそういう監督も多いのではないだろうか。

text by

氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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Naoya Sanuki

 未来の高校野球の道標になる予感がした。

「2020年甲子園高校野球交流試合」が無事に終了した。入場が部員の保護者などわずかな人数に制限され、あらゆる場所でソーシャルディスタンスが意識された甲斐もあってか感染者は出ず、成功と言えるだろう。

 そんな異例の大会の開催前から気になっていたのが、出場校の監督たちが1マッチのみの戦いにどんな価値を見出して戦うかである。

 夏の大会を失った3年生に出場機会を与えるのか、1試合であっても勝利にこだわるのか、来年を見据えて下級生に経験を積ませることを優先するのか。

 今年は甲子園が中止になったことで、各地で「独自大会」が開催された。その中でキーワードとしてよく聞いたのが「3年生の区切り」という言葉だ。

 高校野球の歴史の中でも春夏ともに甲子園が中止になったのは初めてで、そんな悔しい経験をした3年生に晴れ舞台を用意したいという声が上がったのだ。

 現実にも、ほとんどの学校が独自大会を3年生主体で戦い、「引退試合」の要素が強かった。

天理は力を発揮しきれただろうか。

 中でも、3年生の起用にこだわったのが、天理高校だ。天理は第2日の第1試合で広島新庄に2-4で敗れ、中村良二監督はこう語った。

「これだけスイングさせてもらえなかったことはこれまでなかった。研究されていたということ。データ野球ということで言えば、相手が一枚も二枚も上だった」

 昨秋の近畿大会を制覇した天理は、伝統の攻撃力を打ち出すスタイルが持ち味だった。選手層が厚く、フレキシブルに戦える強さも兼ね備えていた。昨秋は県大会から近畿大会にかけて、日替わりのようにヒーローが出て、投手陣もエースの庭野夢叶の他に、サウスポーの吉岡大誓、長身右腕の2年生・達孝太など厚い戦力層を誇っていた。

 しかし、広島新庄に徹底的に研究されたことに加え、昨年秋の公式戦で3試合連続本塁打をマークしている2年生・瀬千皓をベンチに置いたままゲームセットを迎えるなど、その戦力を出しきったとは言い難い。

 3年生に出場機会を与えたかった気持ちはわかるが、甲子園がチームの力を発揮する場なのだとしたら、2年生を度外視した采配ではチーム全ての力を出すことは難しいのではないかという印象を受けてしまった。

【次ページ】 明豊の選手起用は見事だった。

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天理高校
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川崎絢平
倉敷商業高校
梶山和洋

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