甲子園の風BACK NUMBER
小林樹斗が“5万回”見たあの試合。
1年前、奥川恭伸に甲子園で敗れて。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNoriko Yonemushi
posted2020/08/25 07:00
体型的にも、まだ「6、7割の力」というコメント的にも、小林樹斗の投手としての伸びしろは計り知れない。
甲子園で1年間の充実を証明した。
昨年は飲み込まれた舞台で、今年は冷静だった。
「和歌山大会はずっとまっすぐ中心で行ってたんで、相手も少しはそれを見てるかなと思って」と変化球を多めに組み立てた。
それでいて、8回2死で迎えた最後の打者、4番の仲村に対しては、全球ストレート勝負。最後は雄叫びをあげながら151キロのストレートで空振り三振を奪い、高校最後の投球を締めくくった。
小林は3イニングを無失点に抑えたが、打線の追い上げはなく、1-8のまま敗戦となった。
「負けている状況だったのでなんとか流れを持ってこようと思ったんですけど、それができず悔しいです。150キロという数字を出しても結果的に負けてしまうと意味がないので、勝てなかったのが本当に悔しいです」
試合後はそう話しながらも、表情はどこか清々しかった。
「自分自身、あのマウンドですべて出し切ろうと思っていて、結果的に負けてしまったんですけど、最後は出し切れたかなと思います。(最後の1球には)3年間やってきたことが全部詰まってたかなと思います」
冷静さと熱さを兼ね備えたエースに成長した小林は、この1年間の充実を聖地で証明した。