甲子園の風BACK NUMBER
小林樹斗が“5万回”見たあの試合。
1年前、奥川恭伸に甲子園で敗れて。
posted2020/08/25 07:00
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Noriko Yonemushi
8月10日に開幕した「2020年甲子園高校野球交流試合」の最終日、8月17日の第2試合、智弁和歌山対尽誠学園戦。
4回裏に2点を奪われ1-8とリードを広げられると、智弁和歌山のエース・小林樹斗(たつと)はたまらずベンチを飛び出し、ブルペンに向かった。
優勝した和歌山の独自大会でも、継投で最後を小林が締めるという戦い方だったが、チームが3点以上のビハインドを背負ったことはなかった。
「もうこれ以上点を取られると厳しいなと思ったので、自分からブルペンに作りにいきました」
それでも、6回裏にマウンドに上がってからの小林は笑顔だった。その姿は、昨夏の甲子園を沸かせた星稜のエース・奥川恭伸(現・ヤクルト)と重なった。
昨年の夏、奥川に敗れた記憶。
ちょうど1年前の8月17日、第101回全国高校野球選手権大会3回戦の智弁和歌山対星稜戦が行われた。優勝候補の一角に挙げられた両チームによる大一番の先発を任されたのは、奥川と、当時2年生の小林だった。
小林は浮き足立ち、ボールが走らなかった。
「空気がいつもと違うなと感じて、完全に飲み込まれてましたね。もう、ゲロ吐きそうでした。打たれたらどうしようとか、そんなことばっかり考えてプラス思考になれませんでした。今思えば、全然技術もないし、未熟な部分が多かったと思います」
3回まではなんとか0に抑えたが、4回に1点を失い、イニング途中で降板した。6回からは当時のエース・池田陽佑(現・立教大)がマウンドに上がり、エース同士の壮絶な投げ合いは延長14回まで続くが、大会一の出来だった奥川の前に智弁和歌山打線は3安打に抑えられ、サヨナラ本塁打を浴びて敗れた。