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若き天才監督ナーゲルスマンの思考。
CL準決勝でトゥヘルと運命の決戦。
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2020/08/18 19:00
いわゆる“ラップトップ”型監督が台頭しているブンデスリーガだが、ナーゲルスマン監督はその中でも図抜けた存在になりつつある。
1枚目の交代にアダムスを選んだ。
信じている選手だけを連れてきている自負がある。だから、ナーゲルスマンはいつでも迷いなく選手交代を行う。
多くの監督が選手交代で二の足を踏むのは「悪いプレーをした選手を下げる? でも、みんないいプレーをしていたら代えられないじゃないか」という考えがあるからだと鋭く指摘する。
「だから、そもそもの考え方を変える必要がある。誰を下げればいいのかではない。誰がチャンスを得るに相応しい選手かという見方だ。それが見えているならば、なぜ起用してあげないというふうに思えるではないか」
ナーゲルスマンが最初に送り出した交代選手はアダムスだった。2018-19シーズン冬にニューヨーク・レッドブルズから移籍加入。それまでブンデスリーガには24試合出場しているが、CLでは63分しか出場していなかった。
ベンチには高い得点力を誇り、CLでの経験も豊富なスウェーデン代表フォルスベリもいた。しかし、なぜ。この大事な試合の大事な場面でアダムスを選んだのだろう。
「自分の長所を出してみろ!」
ふと思い出したのは、ホッフェンハイム時代に聞いたナーゲルスマンの言葉だ。
2017年のブンデスリーガ第19節マインツ戦で、それまで1試合しか出場していなかったマルコ・テラッツィーノという選手を抜擢した。地元紙は「どうして彼を?」と不思議がったが、そのテラッツィーノが1ゴール1アシストの活躍でチームを勝利へと導いたのだ。
試合後の記者会見で、地元記者から「彼を起用しようと思った理由は?」と質問されると、ナーゲルスマンはマイクを手に、ゆっくりとこう語り出した。
「取り組むべきことに真剣に向き合っている姿を見てきた。だから彼には『自分の武器にフォーカスし、それをどう発揮するかに集中することが大事だ』と伝えていたんだ。ここ最近のトレーニングでは、すごいプレーを見せていた。『自分の長所を出してみろ!』というこちらの指示に対し、今日の試合で見事にそれを発揮してくれた。
だからこそ彼のゴールには興奮したよ。自分の監督人生で初めて駆け出すくらいにね。僕が言ったことをこれ以上なく見事に実践して、相応しい働きを見せてくれた。だから、彼のゴールを祝う最初の人間でいたかったんだ」
優れた監督は、選手を細部までしっかりと観察している。試合は既存のデータで決まるわけではない。CLで言えばナーゲルスマンは練習からアダムスの取り組みを見ていたし、この試合で決定的な働きをしてくれると期待をかけていた。そんなアダムスの決勝ゴールは偶然の産物ではなく、これまで積み重ねてきた結晶だったのだ。