“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
小野伸二も驚いた山崎光太郎の技術。
プロでの苦難は金の卵へのアシストに。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/08/18 17:00
J1清水スカウト・山崎光太郎氏。高原や小野と競い合った高校時代、そしてプロでの苦い経験が今に繋がっていると話した。
カチッと組み合わさったときに。
もう1つ、山崎が大切にしていることがある。それは「縁」だ。
スカウトと言えど、お目当ての選手を毎週、毎月のようにコンスタントに見ることは難しい。近場であればいいが、遠方になると尚更だ。
「僕らも全試合を追えるわけではないし、(見る)回数が少ない選手もいる。全国飛び回りながら見るので、その試合でハマるか、ハマらないかは大事。エスパルスのスカウトである以上、エスパルスと選手がカチッと組み合わさったときに縁が生まれ、獲得に動き出せる。そのタイミングが合った選手の方が入ってからもうまくいくと思うんです。
それがずれているのに強引に獲ったりすると、入ってからもズレが生じる。そこは僕の感覚でもあるんですが、『あれも、これも』にならないように。実力、人間性、逆境での立ち振る舞い、そしてタイミング。獲得にあたってはどれも大事」
選手の「今」を知る機会がない。
今季はスカウトにとっても苦しい時間を過ごしている。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、全国各地の高校、大学サッカー界の活動がストップし、Jリーグの下部組織の試合もできない状態になった。それにより選手の「今」を知る機会は奪われ、判断材料は昨年のプレーのみという難しい状況に置かれているのだ。
「例年、高校生に関しては2、3月のフェスティバルで全国的にバーっと見て、そこでターゲットを絞り、各リーグ戦、インターハイで急成長してきた選手を見極める。このスタンダードがないことは、高校生を追う意味では本当に痛かった。誰がいいのか、誰が良くなっているのかが一切分からない。
映像資料は編集が入るので何が良くて何がダメかがはっきりしないし、やっぱり自分の目で見て、巡り合わせも感じないといけない。判断材料がないので分からないのが現状。大学生に関しても、どのくらいできるかをリアルに想像できる即戦力をピンポイントで獲りにいくので、より難しいですね」
ようやく関東大学リーグが開幕し、高校生も各地でフェスティバルが開催されるようになったが、いまだに高校生と大学生の「今」を見ることができるチャンスは限られている。前述のトライアウトは、学生たち同様にスカウトにとっても数少ない真剣勝負の場であった。
「明らかにこの中で『俺は違うよ』という雰囲気を見たい。そうじゃないとこっちも二の足を踏んでしまう。この崖っぷちの状態、1発勝負で何ができるか。彼らにとっては初めての経験かもしれないので、どう表現していいか難しさはあるかもしれないし、現に明らかにコンディションに差があった。
でも、今回のようなトライアウトは人間性が如実に出る。20分を数本、知らない選手と一緒にやって、さらにこの暑い中で『さあ、プレーしなさい』なんて本当に厳しい環境だと思う。でも、だからこそプロになりたい本気度が分かる。この場で自分を出せる選手は本当に強い。自分が獲らなくても、『この選手どうなるんだろう』と気になるし、もしかするとこの先に縁が生まれるかもしれない。その時に『あの時のあの選手』という出会いは本当に重要になってくると思います」