Jをめぐる冒険BACK NUMBER
室屋成が語るドイツ移籍とFC東京愛。
「健太さんが“頑張って来いよ”と」
posted2020/08/17 08:00
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph by
F.C. TOKYO
室屋成は8月15日のJ1第10節・FC東京vs.名古屋グランパスに先発出場し、ドイツ移籍前最後の試合で勝利に貢献した。試合後のセレモニーではファン・サポーターへの感謝の念を述べて新天地ハノーファーへと旅立っていたが、その数日前に日本最後のインタビューとしてこれまでのキャリア、そしてクラブ愛について、オンラインにて語ってくれた。
ちょっと困ったような表情を浮かべた室屋成は、少し考えてから「なんですかね……一番とか、決められないです」と言って笑みをこぼした。
FC東京での一番の思い出はなんですか――。
そんな質問を投げ掛けたときのことである。
その間、脳裏に浮かんだ風景は、どんなものだっただろう?
大学3年で明治大サッカー部を退部して、FC東京入りを決めた入団会見の風景か。
初めてFC東京のユニホームをまとってJ1のピッチに立った、2016年7月9日のヴァンフォーレ甲府戦か。
今季の横浜F・マリノス戦をはじめとする、数々の好クロスのシーンか。
昨季のリーグ終盤、優勝を目指して戦った、痺れるような日々か。
それとも、小平グランドでチームメイトと談笑した、他愛のない日常か……。
2018年4月、鹿島戦でのリーグ戦初得点。
記者席から見た室屋のプレーで、個人的に強く印象に残っているのは、リーグ戦初ゴールを決めた'18年4月、味の素スタジアムでの鹿島アントラーズ戦だ。
自陣深くから走り出すと、ハーフウェーラインを越えたあたりで永井謙佑のヒールパスを受けて一気に加速し、ゴール前まで運んで右足を振り抜く。
直後、渾身の一撃が、ニアサイド上段に突き刺さった。
'16年2月にFC東京に加入した室屋にとって、プロ3年目。長らく右サイドバックを務めた徳永悠平が’17年限りで退団し、室屋への期待がさらに高まったものの、長谷川健太監督を満足させられないでいるうちに、サブへと降格させられた。
この扱いが、室屋のハートに火をつけた。