オリンピックへの道BACK NUMBER
LINE振付指導で「正面はどこ?」。
フィギュアスケーターたちの模索。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byManabu Takahashi
posted2020/08/16 11:40
シニア強化合宿の練習中、膝をつく坂本花織。
振り付けも「LINEのビデオ通話で」。
坂本花織はフリーについては昨シーズンに続き『マトリックス』を用いるが、ショートプログラムは新しいものにする。振り付けを担うブノワ・リショーは海外にいる。
本来なら当地へ赴き振り付けてもらうが、今年はそういうわけにはいかない。
「LINEのビデオ通話でやりました。なんか、難しかったです。左右が分からないのと、画面の中で、どっちが正面か、分からなくなったり。最初はすごい手こずりました」
苦労の末に、完成にこぎつけた。
氷上を離れざるを得ない期間は、どの選手にとっても悩み、苦しむ時間を含んだ。
その中で発見のあった選手もいる。
今シーズンからシニアに上がる佐藤駿は、「4月のはじめから滑れなくて、6月1日から滑れています」。
氷から離れていた時間の中で、感じたことがある。
「今までは滑れて当たり前でしたが、滑れないときにモヤモヤしたりして。滑りたい思いがとても強かったので、スケートが大事だなと思いました」
スケートをする日常が失われたとき、その大切さを実感した。
「今は上り調子で滑れています」
と、佐藤は語った。
「今はとにかく思いつめないようにしています」
誰もがコロナの感染拡大の影響を受け、その中で自問自答し、手探りで進んできた。折しもグランプリシリーズを、通常とは異なる形式をとりつつ、開催することが発表された。
それでも、先はすっきりしていない。薄い膜があるような、不透明な感覚は今もぬぐえない。練習を精一杯頑張ろうとしても、ときにそれが、影を落とすこともあるだろう。
「今はとにかく思いつめないようにしています。100パーセントを保つのは無理でも、気持ちを高めすぎず、でも練習するというのを意識しています」
田中の言葉だ。
それでも、先を見据え、進んでいく。
葛藤を抱えつつも、画面越しに見える選手たちの表情と言葉には、そうした芯があった。