プレミアリーグの時間BACK NUMBER
新米ランパード監督が証明した手腕。
「失せろ!」と吠える強気さも魅力。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2020/08/01 09:00
クラブのレジェンドが監督としても成功するのは意外と少ないパターンだけに、ランパード監督のチェルシー1年目は十分合格点と言える。
FA杯を獲れなくても十分に成功。
筆者がいたレスター対マンUの記者席では、無観客の試合会場でラジオ実況担当の声もよく聞こえた。同時進行していた他会場の経過報告に「メイソン・マウントが見事なFKで先制点」とあったように、チェルシーはマウントに代表されるアカデミー産の若手数名が戦力となってトップ4争いを勝ち抜いたのである。
マンUは8強入りが濃厚なELで優勝の可能性を残してもいるが、欧州でのチェルシーはCLで16強に進出している。
8月8日に行われる第2レグで、バイエルン・ミュンヘン相手に第1レグで負った3点差を覆せるとは思えないが、FAカップで国内戴冠という可能性はある。
1日の決勝でアーセナルを下していれば、ランパード体制1年目に「驚異的な成果」をあげたと言ってもよいだろう。もちろん、FAカップ優勝がならなかったとしても「成功」という今季の見方は変わらない。
今季ほど評価すべきチェルシーの4位は、ロシア人富豪によるクラブ買収直前の2002-03シーズン以来だ。
その後、トップ4という無形のトロフィーは最低線のシーズン目標であり続けているが、今季は同じくトロフィーを伴わないもう1つの達成目標に関しても、成果が認められる。
サッリ時代から攻撃スタイルを改良。
マウリツィオ・サッリ体制下の昨季と比べてリーグでの勝ち点は6ポイント減り、順位も1つ下がっている。それでも第1期ジョゼ・モウリーニョ監督時代にプレミア連覇を成し遂げた2006年以降、クラブが求め続けるアイデンティティ確立に向けて進歩が見られたからだ。
その要素の1つが、攻撃的なスタイルの構築である。
スコア上はアウェーで大敗した開幕節マンU戦(0-4)のボール支配率54%に始まり、ホームで順当に勝利した最終節ウォルバーハンプトン戦(2-0)の63%まで、チェルシーはポゼッションで優位に立つ攻めの姿勢が当たり前だった。
ボール支配自体は昨季も確認されたが、後方から足下で繋ぐことに拘るサッリ体制下のサッカーは、結果的な横パス増がファンの不評と監督交代を招く結果となった。
その点、さほど繋ぎには固執しないランパードの下では、ポゼッションの維持にリスクを恐れない勇気が加わり、パススピードも伴った攻撃の活性化が見られた。
ホームでワトフォードを料理した33節(3-0)。中盤でボールを持ったマウントが数m手前で相手選手2名の間にいたロス・バークリーにパスを通し、前を向いたバークリーのスルーパスからオリビエ・ジルーがダイレクトでシュートを決めた先制シーンが、変化の一例だ。