プレミアリーグの時間BACK NUMBER
新米ランパード監督が証明した手腕。
「失せろ!」と吠える強気さも魅力。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2020/08/01 09:00
クラブのレジェンドが監督としても成功するのは意外と少ないパターンだけに、ランパード監督のチェルシー1年目は十分合格点と言える。
有望株、ベテラン両方にチャンス。
もう1つの要素は、マウントに代表される“チェルシー色”である。
昨季も、FWカラム・ハドソン・オドイとMFルーベン・ロフタス・チークが生え抜きの若手としてブレークしかけたが、リーグ戦出場は合わせて34試合中24試合がサブだった。
ところが今季は、その両者が怪我で出遅れても、マウント同様にレンタル移籍から戻ってチャンスを与えられたFWタミー・エイブラハム、DFフィカヨ・トモリ&リース・ジェイムズ、そして2年前にプロ契約を結んだばかりのMFビリー・ギルモアという、平均年齢20.8歳のアカデミー卒業生5名が計90試合でリーグ戦先発を経験している。
同時に、出番の減った中堅やベテラン勢が腐ることがなかった事実は、当人たちのプロ意識もさることながら、ランパードのマンマネジメント力も物語る。
スポーツ心理学の本も読んでいるという新米監督は、出場機会の少ない選手への心配りとコンディション管理にも気をつけているに違いない。若いエイブラハムが勢いを失った後半戦は、33歳のオリビエ・ジルーが計8得点でフィニッシャーとして貢献した。
またセンターフォワードをサポートした面々の中では、36試合に出場したウィリアンの存在が光った。30代でも衰えない運動量と切れ味による通年での貢献度は、シーズンの途中から持ち前の突破力とシュート力を発揮したクリスティアン・プリシッチを上回った。
さらに、3センターではリーグ戦37試合出場のマウントが不動だったものの、起用された31試合で攻守に果敢な動力源となった26歳のマテオ・コバチッチがベストMFだったとの評価もある。
采配面においても優に合格点。
ランパードは、肝心の采配面でも合格点を優に与えられる。
就任当初は、MFながらも歴代得点王となったチェルシー現役当時の名声による人選だと囁かれた。そして開幕4試合で計9失点、1勝2分1敗の鈍い滑り出しとなった昨年8月末の時点では、昨季のラスト5試合を2分3敗で終え、マンU・レジェンドとしての御利益も消えたスールシャールの「チェルシー版」と言われもした。
ところがシーズンを終えてみれば、少なくともプレミア強豪での監督にチャレンジする資格の持ち主であることは、誰もが認めるところだ。