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“魔術師”三原脩からオレ流まで。
名将本に見る「監督の言葉力」。
text by
長谷川晶一Shoichi Hasegawa
photograph byTamon Matsuzono
posted2020/06/26 11:50
自身の野村ノートに目を通す野村氏。著作は100冊をゆうに超える。
落合博満は「オレ流」ではなく、「マネ流」。
現役時代に「オレ流」で鳴らした落合博満も、'04年から'11年までの8年間中日の監督を務め、在任中はすべてAクラスに。1位は4回で、'07年は2位だったもののクライマックスシリーズを勝ち上がって日本シリーズに進出。見事に日本一に輝いている。
彼が退任後すぐに発売した『采配』(ダイヤモンド社)も、珠玉の「名将本」である。
注目すべきは「オレ流ではない。すべては堂々たる模倣である」と題された項目だ。現役時代には、『なんと言われようとオレ流さ』(講談社)を出版した落合のまさかの変節なのか? 落合は野村克也の「ID野球」に対して、あまりいいイメージを持っていない。
『野村監督のその手腕は見事である。また、データ分析を重んじる頭脳的な野球は私も嫌いではない。だが、データ野球が徹底した反復練習を疎かにさせ、太く長く活躍できる選手の台頭を阻む一因にもなっていると考えていた私は、ドラゴンズの監督に就任すると、どの球団よりも長く厳しい練習で選手を鍛えようとした』
6日練習して1日休む「6勤1休」という、ある意味で時代に逆行する練習スタイルをマスコミは「落合流」と称した。これに対して落合は「私のやり方は過去に誰かが実践していたものを模倣したに過ぎない」と反論する。
『そうやって自分がいいと思うものを模倣し、反復練習で自分の形にしていくのが技術というものではないか。ピアニストや画家と同じ。私の記憶を辿っても、プロ入り後にチームメイトや対戦相手の選手を手本にしたのは一度や二度ではない。模倣とはまさに、一流選手になるための第一歩なのだ』
つまり、現役時代の落合は決して「オレ流」ではなく、他の選手の模倣だと力説するのである。まさかの「マネ流」!
広岡達朗は「管理野球」を、三原脩は「三原魔術」を、そして落合博満は「オレ流」をことごとく否定する。いつの時代も、とかく名将たちはマスコミが作り上げたキャッチフレーズが気に食わないようである。一筋縄ではいかぬ者たちだからこそ、「名将本」はやっぱり面白いのだ。