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プロ野球と観客についての思い出話。
後楽園球場がガラガラだった頃。 

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安倍昌彦

安倍昌彦Masahiko Abe

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photograph byKyodo News

posted2020/06/25 07:00

プロ野球と観客についての思い出話。後楽園球場がガラガラだった頃。<Number Web> photograph by Kyodo News

満員、ガラガラ、無観客。それぞれのプロ野球はどれほど違うのか、そしてどれほど同じなのだろうか。

観客も、巨人に行きたい理由だった。

 当時、パ・リーグでプレーをしていた選手の方が、あとになって、こんなことを話しておられた。

「お客さんはパラパラっとしかいないから、グラウンドからひとりひとりの顔までわかるんだ。守ってていいプレーなんかすると、『ナイスキャッチ!』なんて声がかかったりして、こっちも思わずその人の顔見て帽子取ったりしてるんですよ。それがなんだか、すごく恥ずかしくてねぇ……。

 おんなじプロ野球なのに、ジャイアンツの選手は3万、4万のお客さんを相手に野球やってるのに、オレはたった1人を相手にやってるだけなのかってね。お客さんなんて、半端に何人か入ってるぐらいなら、いっそ誰もいないほうがサッパリしてていいやって。あの頃、パ・リーグの大物選手たちが、晩年になるとジャイアンツに行きたがったでしょ。さみしかったんですよ、みんな」

 私は高校、大学で硬式野球部にいたが、たくさんの観客の中でプレーをしたことは一度もない。

 高校の頃は、勝っても東京大会で2つ3つのチームだったし、今のように大会のたびに球場のスタンドに家族がたくさん詰めかけることもなかった。大学では、補欠のそのまた補欠だったので、満員の観客の中でプレーする緊張感も高揚感も、わずかな観客の中でプレーするさみしさもわからない。

試合がダレたらどんどん帰る。

 その元プロ野球選手が、最近になってこんなことも話してくださった。

「自分たちの頃のお客さんは、試合がつまらなくなると、途中で帰って行ったものですよ。満員の巨人戦だって、ちょっとでも試合がダレてきたら6回でも7回でも、どんどん帰っていった。お客さんが僕らにきびしかったですよ。

 逆にたとえ最後は負けても、緊張感と覇気のある試合をしてれば、最後まで見てくれた。それが、お客さんから僕らへのアンサーだったんですよ。今は、どんな展開でも、帰らないで最後まで応援してくれるでしょ。幸せだなぁ……と思う反面、お客さんに甘やかされてるなとも思う。最下位のチームだって、いつも2万、3万入って、歌ったり踊ったり一生懸命応援してくれるじゃないですか。これだと、お客さんたちの本当の思いが、逆に選手に届かないんじゃないかなぁ。本当のアンサーをどのくらいもらってるんだろう、今の選手たち」

【次ページ】 目に見えない観客たちに見守られて。

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