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赤土王ナダルが失うクレーシーズン。
34歳、ツアー中断は有利か不利か。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2020/06/10 11:00
ローランギャロスでナダルが王者に輝く。それがこの時期の風物詩だった。2020年、彼のキャリアはどんな方向に進むのだろうか。
9月開催だとバウンドや飛びが……。
まだまだタイトルを積み重ねることができたはずのクレーコート・シーズンを丸々失ったクレー・キングは、もう少し失望感を背負っていても不思議ではなかった。特に全仏オープンでは大会4連覇、通算13回目の優勝がかかっていたし、ロジャー・フェデラーの持つ男子史上最多のグランドスラム・タイトル『20』に並ぶチャンスでもあった。
実際のところ、そのチャンスが今年潰えてしまったわけではない。全仏オープンは、9月20日から開催するという初めの告知を今のところ変更していない。
全米オープンが終わって1週間後に開幕という無茶苦茶なスケジュールに多くの関係者は懐疑的で批判的だが、仮にそれが実現したとしても、逆に実現が叶わず中止になったとしても、ナダルにとって全仏制覇のチャンスは薄れるのではないか。
9月開催なら、「今までとはまったく違うやり方で準備をしないといけない。5月と9月では気候も違うから、ボールのバウンドや飛びも変化するだろう」とナダル。誰にとっても同じことだが、従来成功していた者ほど変化はマイナスに働く。
全仏の最年長優勝は34歳10カ月。
では、もし年内の開催が実現しなかった場合はというと、来年の通常開催中にナダルは35歳になる。肉体的・精神的にもっとも過酷なトーナメントと言われる全仏オープンにおける過去のチャンピオンの最年長記録は、同じスペインのアンドレス・ヒメノが1972年に優勝したときの34歳と10カ月だ。35歳を過ぎた選手がローランギャロスでシングルスのトロフィーを掲げたことはない。
大会のシンボルという立場として、ナダルは9月にやりたいのか、やりたくないのか。本心は違っただろうが、会見では開催時期についての希望は一切口にしなかった。
ただ繰り返し強調したのは、「安全性と公平性が約束されない限り、ツアーは再開するべきではない。やる限りは、このパンデミックの中で最初に行なうワールドツアーとして、世界中に成功例を示さなくてはいけない」ということだ。
ナダルが言う条件は極めてハードルが高い。特に公平性は後回しにされそうだが、国によって出国や入国が許可されない選手を救うことなどできるのか。