欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
マンU“トレブル”の現場で見たもの。
カンプノウの奇跡、伝説の3分間。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byAFLO
posted2020/05/26 07:00
トレブル、カンプノウの奇跡、または悲劇……。この試合を彩る言葉の数々が、その高揚を物語っている。
「監督も選手もくそったれだ!」
「3人目のサブをさっさと使え!」
「いや、攻撃的な選手はもういないぞ」
「それなら、パワープレーしかないじゃないか!」
「ファギーの選手選考が、そもそも間違っている」
「監督も選手もくそったれだ!」
拾い上げた英語をつなぎ合わせると、こんな会話が成り立つ。実際にはもっと激しい罵詈雑言の応酬だった。プレミアリーグとFAカップを獲得してきた“赤い悪魔”を、彼らはありったけの憎悪をかき集めてこき下ろしている。
ほとんどメモを取っていないのは、書き留めておくべきシーンが少ないからだけではなかっただろう。試合後の記者会見でファギーことファーガソン監督を、ミックスゾーンで選手たちを、徹底的に追及してやろうと決めているようだった。
マンチェスター・Uを応援しているわけでなく、バイエルンの勝利を願っているわけでもない僕には、いかにもカップ戦のファイナルらしい試合展開に映っている。イングランド代表当時のガリー・リネカーの言葉を、頭のなかで転がしていた。
「最後に勝つのは、いつもドイツだ」
記者の何人かが席を立った。
2点目を奪うことこそできていないが、バイエルンはリアリティに徹している。指揮官オットマール・ヒッツフェルトは71分と80分に交代のカードを切り、87分には3人目の交代選手を投入した。セオリーどおりの采配と言っていい。’75-’76シーズン以来のヨーロッパ制覇は、ほとんど手の中にある。
後半がロスタイムに入った。
イングランドからやってきた記者の何人かは、試合終了を待たずに席を立った。9万人の観衆が一気に動き出したら、スタジアムの通路は大混雑する。その前に記者会見場へ移動するのだろう。
僕もノートを閉じた。身の回りの物をカバンに詰め込もうとしたところで、マンチェスター・UがCKを得る。GKのピーター・シュマイケルも上がっていく。ラストチャンスだろう。いったん腰を浮かせたが、ひとまず席に戻った。