サッカーの尻尾BACK NUMBER
再開されたサッカーの高揚感。
99年のテリーと20年のハーランド。
posted2020/05/26 15:00
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph by
Daiki Koga
実況の声が画面越しに聞こえてくる。いつもよりも興奮気味だ。
ハーランドがネットを揺らし、ドルトムントが先制した。
ソーシャルディスタンスの喜び。ハーランドの背後、スタンドには誰もいない。もちろん歓声もない。聞こえてくるのは選手やベンチの声と、実況の派手な叫びだけだ。
テレビに映るそんな光景をワクワクしながら見つめていた。
ようやくサッカーが戻ってきた。スペインでも英国でも、おそらくは欧州全土で、スポーツの話題の中心はブンデスリーガだ。
すきまだらけの手帳に今後の試合日程を書く。忘れかけていた週末の楽しみだ。しばらくはドイツサッカーに釘付けになるだろう。
これほどサッカーからかけ離れた日々を過ごしたのは、欧州に住むようになってから初めてのことだ。
20年前に始まったルーティーン。
スペインでは3月中頃にコロナウイルスによる警戒事態宣言が出され、もちろんサッカーも止まった。やってきたのは自由に外を歩けない生活だ。
段階的に規制緩和されている現在、バルセロナとマドリード以外の都市はすでに日常に近い生活ができるフェーズに入っている。スペインの2大都市が他の小都市に追いつこうとする構図は、2強がその他を引き離すサッカー界とはまるで対照的だ。
試合も取材もないので、産卵後の母鳥みたいに巣の中でじっとした日々を送っている。外出は近くの市場に食料品を買いにいくくらいだ。空港の電光掲示板が懐かしい。旅行鞄も部屋の片隅でつまらなそうにしている。
サッカーの周辺を歩き、週末はどこかのスタジアムで試合を見る。そんなルーティーンが始まったのは20年すこし前のことだ。
1999年の冬、ロンドンに2カ月ほど滞在した。当時は19歳の学生で、年に何度か欧州に渡り、寝袋とユーレイルパスとMDウォークマンを手に各地を周った。公園と駅と空港で寝て、お金に余裕があるときはユースホステルに泊まった。観光も買い物もない、ただサッカーを見る日々だった。