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慶應高・森林監督と62人の部員達。
甲子園が失われても「次の一歩を!」。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byManami Takahashi
posted2020/05/22 17:00
慶應義塾高校野球部の皆さん。最前列右端が森林監督(2019年夏に本誌取材時)。
「それぞれが『野球の楽しさって何?』と考えられた」
オンラインだとしても、森林には選手たちの息吹、鼓動が聞こえてくる。
思い切り、野球がやりたい!
彼らの心の叫びを感じ取れる。
エンジョイ・ベースボールの再確認。これこそが、森林の大きな狙いでもあるはずだ。
「野球ができる場所があって、そこに仲間がいる。今まで当たり前だったこと、たまには飽きていたことも(笑)、『実は幸せなことだった』と、失って初めてわかるものなんです。
練習はひとりでもできることがあるけど、最終的に野球はひとりじゃできない。試合に出る9人と、それを支える控え選手。そこに対戦相手がいて、試合を円滑に進める審判、大会を運営する人たち、保護者の方々とか、大勢の力によって、初めて野球ができるわけです。選手たちは、そのことを痛感したと思います。
それぞれが『野球の楽しさって何だろう?』と考えられたことは、いい経験になっていると思っています」
甲子園とは「選手に連れていってもらう」場所。
現在の慶應は、神奈川県の緊急事態宣言の解除を前提とした上で、6月からオンラインでの遠隔授業や分散登校を開始する。
しかし、野球部はそれだと全体練習は再開できない。森林の見立てでは、再始動は「最短でも6月の中旬から下旬」。夏の甲子園予選の代替となる試合も決定してはいないが、指揮官が歩みを止めることはない。
20日のミーティングで選手たちと交わした、“大人と大人の約束”があるからだ。
「慶應のユニフォームを着て、仲間たちと真剣勝負できる舞台を、どんな形でも大人たちが責任を持って用意するから」
森林にとって甲子園とは「選手を連れていく」のではなく、「選手に連れていってもらう」場所なのだという。
今年、その場所はもうない。