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慶應高・森林監督と62人の部員達。
甲子園が失われても「次の一歩を!」。 

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byManami Takahashi

posted2020/05/22 17:00

慶應高・森林監督と62人の部員達。甲子園が失われても「次の一歩を!」。<Number Web> photograph by Manami Takahashi

慶應義塾高校野球部の皆さん。最前列右端が森林監督(2019年夏に本誌取材時)。

部訓として生きる「エンジョイ・ベースボール」。

 森林は選手を大人扱いする。

 監督として、年長者として指針を提示するなどの手助けはしても、「自分の考えを押し付けるようなことはしたくない」と強制はしない。高校球児の大半を占める坊主も、「昔からそうだから」といった根拠の薄い風習を振りかざすことなく、節度ある範囲での長髪を許す。練習などで選手から提案があれば、まずは優先的に実践させてみる。

 慶應にとってそれは、野球を楽しむために必要なエキスでもある。

 エンジョイ・ベースボール。

 前監督の上田誠が築き上げたマインドであり、現役時代や大学生コーチとして恩師の背中を見てきた森林が、監督となった今も部訓として継承する。慶應の学校としての高いブランド力に驕ることなく自我を磨かせ、2018年には春夏連続で甲子園に出場するなど、根っこの強さを証明し続けている。

 だから、高校野球が揺れる今こそ、エンジョイ・ベースボールが試されているのではないか? 今一度、野球の本質を選手たちに伝え、共有していかなければいけないのではないか――森林にそう向けると、「いろんな角度から見えるもの、言えることがあると思います」と断りを入れた上で、口を開いた。

「高校生にとっての生きがい。大人にとっての仕事以上にエネルギーを費やしたものを奪われたわけです。そういうなかでも、『未来へ向けてのチャンスだ』と立ち直って、新たな一歩を踏み出せるかどうか? 僕はいつも、選手に『どんなことが起きてもプラスに捉えよう』と話しています。物事に対して、悲観的になって愚痴をこぼすのか。厳しい状況のなかでもできることを探して、それを積み上げていけるのか? 『どっちが魅力的な人間だろうね』とも問いかけています」

「こういうときだからこそ、なんだってできる!」

 神奈川県に緊急事態宣言が発出された4月7日から、慶應は大学の方針に則り、高校も校内の全施設を封鎖している。

 選手たちは自粛生活を強いられるが、森林は「こういうときだからこそ、なんだってできるじゃないか」と背中を押す。

 家族との時間を満喫するのもいい。好きな本を好きなだけ読んでもいい。打撃フォームや投球フォームを思い切って変えてみてもいい。野球から私生活に至るまで活動内容をノートに綴らせ、その画像をマネージャー経由で目を通して選手の機微を読み取る。気になった選手には直接電話で考えを聞き、LINEを活用して部員全員と1対1の面談もした。学校の課題が少ない時期には野球のプレーに関するレポートを提出させ、大学生コーチを交えてポジションごとのミーティングも週に2度、行っている。5月に入ってからはZoomを使っての全体ミーティングに着手するなど、SNSやインターネットを駆使しながら、森林は様々なアプローチで選手に活力を与える。

【次ページ】 「それぞれが『野球の楽しさって何?』と考えられた」

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