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短縮シーズンと議論百出の背景。
MLBは金儲けより「治癒効果」を。 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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posted2020/05/23 11:00

短縮シーズンと議論百出の背景。MLBは金儲けより「治癒効果」を。<Number Web> photograph by Getty Images

2019年6月、ロンドンに向かうレッドソックスの選手。今年もロンドンでカブスvs.カージナルスのカードが予定されていたが、中止となった。

収入が半分なら「出ないほうがマシ」。

 意見の根拠は「無観客試合がつづけば、今季は40パーセントの収入減となる」という試算だ。当初、オーナー側は、今季の予想収入を100億ドルと見越していた。それが、無観客と開催期間の短縮で、60億ドルに減少しそうだといわれている。

 選手の年俸総額は、現在46億ドルだから、痛み分けの形でこれを半額にしたいというのが、オーナー側の発想だ。

 もちろん、選手側はこれに猛反発している。レイズのブレイク・スネル、ロッキーズのノーラン・アレナド、フィリーズのブライス・ハーパーといったスター選手たちは、「生命の危険を冒し、家族との生活を犠牲にし、収入まで半分に減らされるくらいなら、出ないほうがマシだ」とまで発言している。

「生活の根底」に関わる治癒効果を求めている。

 この問題はたぶん、5月末ぐらいまでに軟着陸の地点を見つけ出すと思う。ただ、ファンは白ける。オーナー側も選手側も、この4年間、野球の観客数が減少の一途をたどっている事実から眼を背けないほうがよいのではないか。

 観客が野球に求めているのは、オーナーや選手たちの貪欲な経済活動などではない。

 無意識裡かもしれないが、彼らはむしろ、「生活の根底」に関わる治癒効果を野球に求めている。球場という空間の広がりを実感し、選手たちの躍動する姿を見て、バットがボールを弾き返す音を聞きたいと思っている。

 野球が戻ってくるとは、人々の普通の生活がふたたび可能になるかもしれないことに結びつくのではないのか。金儲けに走るのは、世の中がもっと落ち着いてからでいいだろう……。

 そんなことを考えているうち、全30球団でDH制が採用されるという思い切った改革案に触れる紙幅がなくなってしまった。これは今季限りの現象なのか、それとも将来につながる改革の序章なのか。機会を改め、ゆっくりと考えてみたい。

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