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村井満&原博実・緊急インタビュー。
Jリーグvs新型コロナ、決断の真相。
posted2020/04/24 11:50
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph by
Kiichi Matsumoto
政府が緊急事態宣言を発令する直前の4月6日、Jリーグのオフィスは静かだった。職員は在宅勤務中。たった2カ月前、新シーズン開幕に向けて活気に満ちていたのが、嘘のようだ。日本のプロスポーツ界で初めての中断決定。新型コロナウイルスへのスピーディーな決断は、どのような経緯で下されているのか。村井満チェアマン、原博実副理事長のトップ2人に訊いた。
――Jリーグが新型コロナ対策に動き始めたのは、いつ頃ですか。
村井 1月に中国の武漢で感染拡大が報じられた時点で、準備を始めていました。大きかったのは、2月8日に開催したFUJI XEROX SUPER CUPだったと思います。この試合の前売りチケット販売は非常に好調で、5万人近い来場者が見込まれていました。1月の段階で原さんとも相談して、「とにかくお客さんを守ろう。マスクを5万枚用意しよう」と決めて、実際に手配したんです。
ところが試合が近づくにつれて、各地でマスクが品切れ状態になりました。1つの大会だけで消化することが正しいやり方ではないと思い、リーグ全クラブに800枚ずつ分けました。FUJI XEROX SUPER CUP当日は、主催者側全員がマスクをする。アルコール消毒液を、すべてのゲートとトイレに配備する。各クラブには、まずは我々がモデルケースを作るから、リーグ戦開催時にそれを見習ってくれと伝えました。
――実際に2月21、22、23日には明治安田生命J1とJ2の開幕節は開催しました。
村井 リーグ開幕戦でも同じように主催者側は全員がマスクの着用と手洗いを徹底しました。すべてのゲートに消毒液を置いて、大型スピーカーで注意喚起をして。21日の湘南―浦和戦では開門当初、まだ消毒液を使うことに慣れていないお客さんも多かったので、スタッフがお客さんの待機列まで持って行って、手に消毒液をかけたりもしました。
24日には(各クラブの代表者である)実行委員をオンライン上で集めて、開幕戦に関する聞き取り調査を行いました。医務室に運ばれた人はいなかったか、マスクや消毒液など物資は足りていたか、ファン・サポーターに混乱はなかったかなどです。
私からは「場合によっては中止する判断はないか」という問題提起をしました。要は、東京五輪期間中に試合をやらないことも、国への協力の仕方の1つだけども、むしろ我々がこの初動のタイミングでリーグ戦をストップして、五輪期間中に試合をやるというのも国への貢献じゃないかと。いろんな意見が出ましたけど、ある程度、第2節以降の開催にも手応えを得ていたんです。
――ところが2月25日、リーグとYBCルヴァンカップの中断を発表しました。
村井 24日の夜に、政府の専門家会議から「これからの1~2週間が急速な拡大が進むか、収束できるかの瀬戸際となる」というコメントが出ました。普通なら政府は“瀬戸際”なんて表現は使いません。相当強いメッセージが込められているなと、感じたんです。当初は25日14時からの理事会で、延期を決める予定でした。
原 26日にYBCルヴァンカップが控えている。ということは、アウェーチームは25日の午前中に練習して、午後には移動を始める。実際に各クラブの関係者に電話してみると、「移動を始めてから中止を伝えると、現場も混乱するし、負担も大きいから早く決めたほうがいい」という声が多かった。
村井 理事会後では間に合わないと。11時の時点で各クラブの社長に連絡をして、理事会で事後承認を得ることを前提に、11時半からの緊急ウェブ会議で延期を決めたんです。