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村井満&原博実・緊急インタビュー。
Jリーグvs新型コロナ、決断の真相。 

text by

松本宣昭

松本宣昭Yoshiaki Matsumoto

PROFILE

photograph byKiichi Matsumoto

posted2020/04/24 11:50

村井満&原博実・緊急インタビュー。Jリーグvs新型コロナ、決断の真相。<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

ガランとしたJリーグオフィスで対応してくれた村井チェアマン(右)と原副理事長。この壁の無いオフィスの作りにも、Jリーグの組織の風土が表れているのだ。

優先事項は「国民の心身の健全な発達」。

――サーモメータ―の全会場設置やアウェー席の制限など、次々と新たな施策が発表されています。施策を決める上で、大切にしているルールはありますか。

村井 こういう混乱の状況って、いろんなトレードオフ(両立できない関係)が起こるんです。例えば「サーモメータ―を用意したい」と思っても、「お金がない」。「こういう時こそチームを応援したいと思っているファン・サポーターがたくさんいる」けど、「感染を防止するにはアウェーサポーターを入れないほうがいい」などです。各論や枝葉の議論になると、必ず賛成・反対が出てきて、収拾がつかなくなるのは目に見えていました。

 だから、早い段階で意思決定する上でのプライオリティ(優先順位)を決めました。Jリーグの理念の1つに、“豊かなスポーツ文化の振興及び国民の心身の健全な発達への寄与”という言葉があります。これに立ち返ろう、と。まずは「国民の心身の健全な発達」。Jクラブは全国にあるのだから、国民の健康を第一に考える。判断に迷ったら、これを一番大事にする。

 国民、つまり観戦するファン・サポーターの健康を守るにはサーモメーターが欲しい。全会場に設置するには450台必要だとわかりました。ならば、それを用意する。もちろんお金はかかります。でも、そこはファーストプライオリティだから、予算を集中させる。4月3日の再開を目指していたときも、サーモメータ―が全会場に揃うのは4月18日以降になるとわかったので、3日再開は諦めました。

 2番目に「豊かなスポーツ文化の振興」として、できる限りサッカーとスポーツを守る。多少ルールを変更しようが、公平性を阻害しようが、スポーツを守ることが大事。3番目は、長い年月をかけてサッカー文化を日常に溶け込ませてくれたファン・サポーターと一緒に試合をできないか、ぎりぎりまで頑張る。4番目が、いよいよ非常事態となって無観客でやらざるを得ないという選択肢。もしかしたら、J1ならば全34節を消化できないかもしれない。そのときは、その枠の中でやる。もちろんシーズンの成立条件が問題になりますから、「全試合数の75%消化かつ、各クラブが50%以上の消化」という数字を示しました。

 現在は、この4番目のフェーズに入っていると思います。無観客開催と言っても、アウェー戦の場合、選手やスタッフ合わせて40人規模が長距離移動を強いられます。それも公共交通機関を使う。そこで感染者が出てしまえば、リーグ全体が止まってしまう。そう考えると、無観客開催だとしても慎重にならざるを得ません。

――「情報公開」も、Jリーグの新型コロナ対策の特徴だと思います。3月30日に選手として初めてヴィッセル神戸の酒井高徳選手の感染が判明した際にも、いち早く、詳しい情報を公開していました。

村井 こういうときって、いわゆる大本営的な、もしくは広報がこねくり回した言葉では、伝わらないと思うんです。自分の言葉で語るってことが、ものすごく大事。僕が言っていることは、正解じゃないかもしれない。だって、正解はないし、この先感染状況がどうなるかもわからない。でも、トップが「俺はこう思う」ってことをしっかり言っていかないと、ファン・サポーターは混乱しますよね。

 例えば原さんがDAZNでやっている『Jリーグジャッジリプレイ』にも同じことが言えると思うんです。審判のジャッジって、必ず1つの正解があるわけじゃない。審判委員会だって、判断に迷うプレーがある。それでも「俺はこう思う」と発信することが大事で、それによって理解が深まっていく。今回の新型コロナ対策に関しても、『JリーグTV』での原さん説明が、分かりやすかったりしますから。

【次ページ】 スポンサーからのありがたい言葉。

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