話が終わったらボールを蹴ろうBACK NUMBER
小野、高原、稲本を追う日々の終焉。
ドキュメンタリー番組の終わり方。
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byFuji Television
posted2020/04/29 11:55
小野、高原、稲本とともに写真に収まる能智氏。彼もまた黄金世代の「同志」の1人なのかもしれない。
最初は高原を軸で考えていたが。
番組は、高原の沖縄での活動を軸に展開していく。小野や稲本はJリーガーゆえに、試合があって、練習があって映像的にはよくあるサッカー選手の姿だ。だが、高原は九州リーグのチーム、Jリーグで言えば5部相当のクラブのオーナーであり、選手だ。一時は監督も務めていた。さまざまな表情があるだけに、映像的にも幅がある。
――ボリューム的にも映像的にも高原のパートが面白いなって思いました。そこは意識して高原を軸にと考えていたのですか。
「確かに撮れ高はタカが一番あったし、結果的に尺(時間)も長いし、刺激的なシーンも多かったです。最初は僕も第2の人生の岐路に立ち、既にスタートを切っているタカを軸に構成しようと思っていたんです。でも今回、スタッフとして関わってもらったアドバイザーの増本淳に『そういう目線で作ったらダメですよ』って駄目出しされたんです」
増本氏はフジテレビで「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」などをプロデュースした後、2019年に退職し、フリーのプロデューサー兼脚本家として活躍している。能智氏の後輩に当たり、今回、アドバイザーとして関わってもらった。フィクション作家がノンフィクション番組の構成に関わったらどんな番組になるのか、仮編集の番組を見てもらい、アドバイスをもらったという。
「これは稲本の番組ですよね」
――増本さんには、どんなアドバイスを受けたのですか。
「印象的だったのは、番組の仮編集を見終わった後に『これは稲本の番組ですよね』って言われたことですね。僕もタカの印象が強い番組なんじゃないのって思っていたんです。でも、稲本は誰もが感情移入できる普通の優しい男のび太くん。そこにジャイアンみたいな高原がいて、小野は天才で人を惹きつけるドラえもん。
『一番感情移入できる稲本を中心に作っていかないと何を見て良いのかわからない軸の無い番組になっちゃいますよ』って言われたんです。あと、『能智さんがサッカーシーンをたくさん入れたいのはわかるけど、日曜日にBSを18時から見ている人っておじさんですよ。そういう視聴者に見せていくならサッカーじゃなく、3人の人間模様をもっと絡ませて紡いでいかないと2時間も見ていられないと思います』って言われて……」
――稲本を軸に構成し直したということですか。
「そうです。だからオープニング明けはイナから始まっているんですよ。番組の中でイナが携帯をいじりながら『シンジ、タカ、どうしてんの?』っていうシーンがあるんですけど、そこからはイナが仲間をどう思っているのか、意識しているのがよく分かるし、仲が良いというのが伝わってくる。そんなイナの様子を合間、合間に入れて軸を作らないとダメだって言われて、かなり大きく直しました。
増本にはいろいろ言われたけど、修正して完成した番組の方がはるかにいい。彼がいなかったらこのような作品にはならなかったと思います」