話が終わったらボールを蹴ろうBACK NUMBER
小野、高原、稲本を追う日々の終焉。
ドキュメンタリー番組の終わり方。
posted2020/04/29 11:55
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph by
Fuji Television
2019年8月、フジテレビの能智大介氏は、13年ぶりに「ワールドカップをめぐる冒険」の撮影を始めた。これが小野伸二、高原直泰、稲本潤一を追う「最終章」と決めたエピソード7である。
編集加工スタッフは、13年前にエピソード6までともに制作した仲間たちを集めた。ナレーションのジョン・カビラ氏を始め、6作品を知り、自分の想いを知るメンバーでラストをやり終えたかったのだ。
撮影を進めるに当たり、能智氏は、稲本と小野についてサブテーマを考えていたという。
――稲本と小野のサブテーマというのは、どういうものだったのでしょうか。
「彼らの成長を表現するのに分かりやすいのは家族の存在だと思っていました。実際、イナの奥さんには取材していました。子供ができたし、40歳のお父さんの稲本を描きたい、夫婦の物語を作りたいと思っていたんです。でもNGでした。それは……うーん、照れくさかったのかなぁ。もしできたら、もうひとつ違う味の稲本を描けたのになぁっていう思いがありましたね」
サッカー選手であり、一家の主である。
――小野が長女と腕を組むシーンが印象的でした。
「シンジは、彼自身のプレイヤーとしての活躍をもうちょっと深くやりたかったですが10月下旬にケガをしてしまい早い段階でシーズンが終わってしまった。家族についてももう少し取材したかった思いもありますが、背中越しに長女がシンジの腕を組んで歩いて行く姿が撮れたので、あのシーンでどんなお父さんなのか十分に感じられるかなと。その時は、『スゴイの撮れちゃった』とカメラを回している手が震えましたけどね(笑)。
親子関係をセッティングしてカメラを意識した形で一緒に食事をするところを撮ったりするよりも、サッカー選手であり、一家の主である素のシンジが撮れた。お父さんとしての姿が詰まったいいシーンだったと思います」