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「なぜダフらなかったのか…」中山雅史の頭から離れない“幻のゴール”とは?【4戦連続ハットトリックから23年】 

text by

北條聡

北條聡Satoshi Hojo

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2021/04/29 11:04

「なぜダフらなかったのか…」中山雅史の頭から離れない“幻のゴール”とは?【4戦連続ハットトリックから23年】<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

2021年1月、事実上の現役引退を決めた中山雅史。53歳まで走り続け、多くの記録を残した

中田英寿からパスが届き、あとはゴールに蹴り込むだけ

 良い意味であきらめの悪い男に、こうまで言わせるのだから、逃した獲物(あれ)がいかに大きかったかがわかる。中山に千載一遇の好機がめぐってきたのはジャマイカ戦の6日前。強豪クロアチアとのグループステージ第2戦でのことだった。

 0-0で迎えた34分だ。

 中田英寿が右サイドで敵のボールを奪った瞬間、すっと守備者の背後に回り込んだ中山が一気にゴール前へ。そこに中田から矢のようなパスが届く。これを絶妙のトラップで手なずけ、GKと1対1に。あとはゴールに蹴り込むだけだった。

「ヒデがボールをもった瞬間、相手からすっと離れて背中を取り、空いたスペースに入っていこうと。相手がボールウォッチャーになりやすいのでプルアウェイ(守備者の視野から外れる動き)が有効だと事前のスカウティングで聞いていました。あとで何度か映像で観ましたが、自然に体が動いていた部分があるなぁと」

 パスを呼び込む動きからトラップを経てシュートに持ち込むまでの一連のアクションは申し分がない。それこそパーフェクトに近いものだった。

「パスを受けるときに左の太ももよりも、右の太ももでボールを前に落とそうと。もっと言えば、太もものちょい外側で。そうすれば、そのままシュートを打てるだろうとね。それを選択するだけの時間や余裕があったんですよ」

 ナントのスタッド・ドゥ・ラ・ボージョワールを埋め尽くした日本のファン・サポーターが、いや日本中の人々が思わず腰を浮かし、息をのんだ瞬間である。

1998年の中山は神がかっていた

 いま振り返ってみても、この年の中山はどこか神がかっていた。

 例の4試合連続ハットトリックのギネス記録を打ち立てたのも、空前のゴールラッシュで自身初のJリーグ得点王を手にしたのも、この年である。伏線があった。

 前年の1997年だ。

 磐田の山本昌邦コーチと二人三脚で動きの質の改善に取り組んでいる。片足を軸に体の向きを回転させるピボットやステップワーク、敵の視界から消えるプルアウェイに至るまで、フィニッシュに持ち込むためのアクションを徹底的に磨き抜いた。

「正直に言うと、手ごたえはいまひとつでしたね。確かに練習ではしっかり順序立てながら、理詰めでシュートまで持っていく。ただ、実際の試合でそれを冷静に考えられていたかと言うと、そこまでの時間も余裕もなかったなと。

 でも、あとから振り返ってみると、そういう動きができていたゴールもあるんですよね。反復練習から生まれたものかもしれないけれど、体に染みついた動きがポンと出たのかと言われると、そこまでの確信や手ごたえはなかったですね」

 本人はいまも半信半疑だ。

【次ページ】 「リポーターからスタメンへ。普通はないですよね」

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