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「なぜダフらなかったのか…」中山雅史の頭から離れない“幻のゴール”とは?【4戦連続ハットトリックから23年】
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph byTakuya Sugiyama
posted2021/04/29 11:04
2021年1月、事実上の現役引退を決めた中山雅史。53歳まで走り続け、多くの記録を残した
GKからボールをかすめ取って値千金の決勝点
中山は、記憶の人でもあった。
ボールに最後まで食らいつく執念はもとより、危険な場所にも人間ロケットみたいに頭から突っ込んで点を取る姿は、どこか常人離れしていた。しかも、それを大舞台でやってのけるのだから、見る者の記憶に残らないほうが不思議である。
例えば、鹿島アントラーズを破り、磐田を初のJリーグ王者へ導いた1997年のチャンピオンシップ第2戦で決めたゴールがそうだ。最前線で懸命に敵の選手を追い回し、ついにはGKからボールをかすめ取って値千金の決勝点を叩き出している。
「あのときは洋平(佐藤=GK)がボールを持ってくれたら奪えると。必死に追いかけながら『持て、持て、持て』と念じていましたよ。あれは最初のチャンピオンシップで、次にいつ優勝するチャンスがめぐってくるかはわからない。だから何としても、ここで勝ちたいと。その思いが実って栄冠を引き寄せることができたのかな」
ほかの人がしないことをやり続ける必要があった
清水エスパルスと雌雄を決した1999年のチャンピオンシップ第1戦では代名詞とも言うべき鮮やかなダイビングヘッドが炸裂している。本人にとっても、印象深い一撃だったという。
「あれは安藤(正裕)のクロスに飛び込んだんですよ。これ、届かないだろうと思いながら……でも、届いた(笑)。とにかく、相手の前に体を入れたい。そういう思いでやってきましたね。相手の嫌がる場所や危険なスペースに体をねじ込んでいかないと、自分は生き残っていけない。だから、ほかの人がしないことをやり続ける必要があったんですよ」
いかにライバルたちがしないこと、やりたがらないことをやり続けるか。その強い思いが後にも先にもいない異能の点取り屋を形づくっていたとも言える。