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五輪延期で思い出した東大入試中止。
選手が感じるであろう「1年」の重み。
text by
藤島大Dai Fujishima
photograph byHiroyuki Nagaoka/AFLO
posted2020/04/02 11:30
7人制ラグビー日本代表、副島亀里ララボウラティアナラ。6月で37歳を迎える(写真は2019年のもの)。
来日で開けた予期せぬラグビーの道。
ところが、青年海外協力隊の理学療法士としてフィジーに滞在していた佐賀県出身の女性と恋に落ちて結婚、2009年1月に来日すると、ラグビーの予期せぬ道はひらける。
まず佐賀の舗装工事会社の社員へ。ランマーと呼ばれる地盤を固める機械の扱いは悪くなかった。かたわら地元のクラブで楕円の球を追う。日本国籍取得で国体7人制の佐賀県代表に選考され、大いに駆けて、一部の関係者の関心を引き寄せた。ちなみに東京国体の味の素スタジアムにおける開会式に臨んだら感極まって泣いちゃった。そのわけは「オリンピックみたいで」。後年の笑い話だ。東京五輪の7人制会場もそこである。もういっぺん涙は頬をつたうだろう。
副島は2016年のリオデジャネイロ五輪代表の一員でもあった。ニュージーランドをやっつけたのは語り草。すでにオリンピアンなのは、延期に際して、救われる気はするも、繰り返すが37歳の1年が短いはずはない。仮に海外生まれの選手の日本国籍取得がそのあいだに進めば好敵手の層も厚くなる。
ゆえに時間は賢者の味方である。
女子バレーボール、8年前のロンドン五輪銅メダル獲得の主軸で、母となり、代表復帰の35歳、荒木絵里香の1年も「あっという間」ではあるまい。23歳以下が資格とされる男子サッカーの「来年はオーバー23」組はどうなる。4年ごとの五輪の「そこにおのれのピークはめぐるのか」というそもそもの構造とあわせて気になる。
もっともトップ級のアスリートは弱音を吐かない。「弱みを見せない」属の生き物だ。「自分の力で動かせないことは考えない」はマントラである。すでに五輪出場を担保された選考突破者は、前述のベテランの試練は確かでも、1年を有効に過ごせば、いまよりよくなりうる。記録でも、直接の対戦でも、自分を上回る仮想敵に追いつける。当然、いま優位な側がさらに時間を得てより先行する場合もある。しかし、追う側にとって「いまなら勝てない」が「これでわからない」となれば、それは好機なのだ。時間には勝てない。ゆえに時間は賢者の味方である。